「そうだね。外に残してきたものは死者であり、夜の闇に生きるなにものかであり、雨や風、雷、月、星、つまり自然だ。人間のなかに内と外という概念が生まれるのは ー 自意識のようなものが生まれ、内面が育っていくようになったのは ー 自分たちの手で家をつくるようになったことが大きかったんじゃないかと私は思っているんだよ」
松家仁之 『火山のふもとで』 新潮文庫
ゴールデンウイークに信州へ出かけたさいに、浅間山のふもとを舞台にした『火山のふもとで』を旅のお供の文庫本にしました。結局、帰りの新幹線の中で読み始め、それから約一か月半かけてじっくりとページをめくりました。
一つ一つのシーンが静かに丁寧に書かれているのですが、それらが丁寧に書かれれば書かれるほど、書かれていない場面が雄弁に語りかけてきて、それが静かに読み手の心の奥底まで沈殿してきます。
素晴らしい小説です。
最終章での、
建築は利用者とその時代によって、息を吹き込まれ、生かされていく。 〈中略〉 人と時間が、あの大聖堂を育てたのだ。
と主人公が達観している場面は、それまでの物語を読み終えた後だと、胸にじんわり沁みてきます。
株式投資もおそらくはそのようなものなのでしょう。人と時間が育んでいくものなのです。