「ところが、集団行動の遺伝子をもたない人たちもいるようなのだ」とロションは言う。「彼らには、みんなと同じように動かなくちゃ、という意識がない。自分の頭で考えられる人たちだからこそ、優れた投資家になれる」
ウイリアム・グリーン 『一流投資家が人生で一番大切にしていること』 依田光江・訳 早川書房
趣味+投資先発掘のスケベ心でやっております各大物ファンドマネジャー(Big Shots)の株式ポートフォリオの確認ですが、2024年の4th Qが公開されています。さっそくレビューをしたいところですが、確認するメンバーを入れ替えることにしました。
今回外すのはDISCIPLINED GROWTH INVESTORS (DGI)で、代わりにカナダのマネー・ジャーのフランソワ・ロション氏のポートフォリオをのぞき見することにしました。
DISCIPLINED GROWTH INVESTORS (DGI)は『カジノにおける長期投資Big Shotsの動向 ‐ 新メンバー -』で紹介しましたが、おもに中・小型の米国株式に投資しています。以前は時価総額が小さいサイズの株式の投資先を探してみたいという欲求があったのですが、最近はすっかり新規投資先候補発掘に対する興味が薄れてきていて、逆にある程度なじみがある企業の株式にじっくり投資しているファンドのウンチクに耳を傾ける方が楽しいなと感じています。
若干興味の範囲が自分の好みに偏り始めたということかもしれません。なじみのものに囲まれて過ごしたい・・・私もそれなりに年を取ったのでしょう😅
ロション氏のポートフォリオには、最近The 3rd Man's Fundに加わったNVR, Inc. (NVR)を保有している著名ファンドマネジャーはいないかなあと探していて、たどり着きました。
Giverny Capitalのホームページより |
フランソワ・ロション氏はモントリオール大卒業後にエンジニアとして働き始め、お金がたまりはじめてから元々興味があった株式投資を始めたそうです。投資や会計関連の講義を受けたり本を読み漁ったりしているうちにピーター・リンチの存在を知ることになり、彼の『ONE UP ON WALL STREET』を読んで、株式市場はカジノではない、株価は長期的には企業の本源的な価値に追随する、ということを学んだそうです。
そして同書を通じてウォーレン・バフェットの存在を知り、そこからさらに遡ってベンジャミン・グレアムやフィリップ・フィッシャー等々の影響を受けることになります。どうやら熱心に毎年バークシャー・ハサウェイの総会にも足を運んでいるようです。
こうして株式投資にのめりこんだ結果、エンジニアをやめて資産運用会社に転職します。しかし、そこの会社の時間軸がロション氏のそれと比べてあまりにも短すぎたために辞めることになり、その後は自身で資産運用をはじめ、1998年にGiverny Capitalというinvestment firmを立ち上げます。
さてGiverny CapitalのGlobalポートフォリオですが、1993年の設定からの年率リターンは15.1%となっています。一方ベンチマークにしているIndex(S&P/TSX、S&P500、Russell2000、MSCI EAFEの各年初の比重でわりだしたもの)は9.8%ということで、5.3%アウトパーフォームしていることになります。
これだけだとピンとこないですが、グラフに直すと・・・
Giverny Capitalの2024年度アニュアルレポートより |
その年率5.3%の差が長い年月を経ると暴力的な差になるのが一目瞭然ですね。しかも複利の指数関数的効果がはっきりとわかります。この複利の効果ってやつの難しいところは、かなりの長い期間その効果がInvisibleってところにありますね・・・余談ですが。
上記の30年の期間中、株式市場は2回の50%の下落、7回の20%以上の下落を経験したそうです。
それでこのGiverny Capitalのなにがいいかっていうと、そのアニュアルレポートですね。
じつはまだ2024年度のものしか読んでいないのですが、これまで読んできたバークシャー・ハサウェイやFundsmith、Nomad Investment Partnershipのレターと比べても、比較的素直な言い回しの平易な英語で書かれていて、読みやすいです。
さらにユニークなのは、毎年、自分のやらかし(失敗)の金・銀・銅を発表していることです。ちなみに2024年度版の金はCintas(CTAS)とのことでした。同社はロション氏のスイートスポットのど真ん中の事業(退屈で、ものすごく安定していて、Recurring)を営んでいて、彼が株式投資を始めたころからずっと目をつけていたとのことです。
CTASは2025年度末にはEPS$4.35を達成見込みであり、これは過去9年間で326%増(年率でいくと17%以上増)であり、Revenueは$4.9Bから$10.3Bになるとのことで、これはロション氏が2016年に描いた見通しをほぼ実現した形なのだそうです。
残念ながら唯一実現しなかったことは・・・ロション氏がCTASの株主になることだったそうで・・・。つまりもう少し株価が安くなるのを待っていた結果、手が出ないまま今日に至っているようです。おかげで株価が8倍になったのを指をくわえてみているしかなかったのだとか。
かくいう私もCTASは遅くとも2014年にはその存在を知っており・・・そう、当時の投資先発掘ソースであったDividend Championsのリストに載っていたんでよね。私もピーター・リンチの本を読んで、Reccuring需要がある退屈なビジネスは投資先として良い・・・程度の知識はあったので、少しばかりはCTASが引っかかったのを覚えています。
しかし配当率が低かった(当時の私には配当率の高さが重要だった!)のと、全然聞いたこともない会社だったこともあり、手を出さなかったんだよな😅 悔しすぎるので、今後も絶対に手を出さない😂
閑話休題、ロション氏の失敗メダルだけは過去のアニュアルレポートをさかのぼって確認したのですが、ほとんどがその価値を認めていたにもかかわらず手を出すのを見送った事例でした。
逆に言えば、その慎重姿勢の積み重ねが、長い年月を経て今の素晴らしいパフォーマンスにつながっているともいえるのではないでしょうか。
この自虐ともとらえられるユニークなアニュアルレポート、なかなかいいですね。カナダとアメリカ合衆国での投資の土壌の豊かさがにじみ出ている気がします。
最近の日本では、一部の投信の運用レポートで随分中身の濃いものが出てくるようになっていますが、いかんせん中身があまりに生真面目過ぎるか、あるいはポエム色が強すぎるかに分かれてしまっている傾向があります。お国柄なんでしょうかね。月次はともかく年一回くらいは、バークシャー・ハサウェイやGiverny Capitalのようなユーモアあふれるレターが出てくれば、株式投資が「文化」の域にまで昇華してくるのに・・・と思っています。せっかくNISA効果で投資を始める人が増えているのだから、たんに基準価格や信託報酬だけ喧伝されるのは、絶好の景勝地にコンビニとファミレスと健康ランドしかないくらいにもったいないことですからね。
またまた閑話休題、Giverny Capitalのアニュアルレポートの真骨頂は、ロション氏が計算したところ、1996年からの保有企業の本源価値は年率で12.9%増えていて、それらの株式のマーケットバリューは同期間で年率13%増だったとのことです。ピタリと一致していますね。
ロション氏がアニュアルレポートを書く目的は:
Over the short term, the stock market is irrational and unpredictable (though some may think otherwise). Over the long term, however, the market adequately reflects the intrinsic value of companies.
ということを知らしめることにあり・・・とのことですが、まさに結果がそれを証明しています。圧巻。
今後過去にさかのぼってGiverny Capitalのアニュアルレポートを読んでみたいと思います。
最後に、ロション氏へのインタビューを見ていて学んだ即効性のあるウンチク・・・企業をレビューする際には、その事業のMOATが広がりつつあるのか狭くなりつつあるのかの視点を含めること!
ふーむ、勉強になります。
情報開示:この記事を書いている時点でNVR4株保有
ちなみにロション氏は全人類の5%くらいの人々は集団行動の遺伝子をもっていないんじゃないか、的な発言で有名でもあります。
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