2025年4月29日火曜日

ロスト・ワールドの覇者 その2 - WSOのFY2024 -

As a leader of one of those families so succinctly put it, when you join Watsco, “you’re not swallowed by a big fish, instead you get to swim with a school of fish.”

2024年度のWSOのアニュアルレポートより

日本の夏は今年も暑くなりそうです。米国はどうなのでしょうか。



Watsco, Inc.(WSO)

米国でのHVACのディストリビューター。もともとはHVAC関連の部品メーカーだったが、1989年にディストリビューターの買収を開始し、以降70社を傘下に収めてきたベテランの同業他社serial acquirer。

さて、M & Aにはどういうイメージをお持ちでしょうか。

私には昭和的気質が多分に残っているので、どちらかというとネガティブな印象が強かったです。いかに売るかに頭をひねるより黙々とよい製品なりサービスを提供すれば売り上げはついてくる、そうして成し遂げるオーガニックな成長こそが王道で、M&Aは邪道・・・みたいな考えが根付いていました。

私が若かりし頃に話題になった映画『ウォール街』が公開された1987年当時では、米国でもあまりよい印象が持たれていなかったのではないでしょうか。



次の10年に向けての雑文(4) ーa permanent holderにとっての最大のリスクー』で書いたように私の実体験でもけっこう面倒だったし。

最近は日本でも買収の動きが活発になってきていますが、どうしても揉めているものの報道が多くなってしまうこともあり(例:ニデックと牧野フライス・・・もはやB級映画の愁嘆場じゃねえか😅、ヤゲオと芝浦電子、クシュタールと7&i等々)、なんとなく良いイメージをもっていない方も多いと思います。

しかし私のM & Aに対するそのようなイメージを払しょくさせてくれたのがWSOのアニュアル・レポートです。

今年度のレポートは、のっけからM & Aされた側の人々の特集です。

その冒頭に、1964年創業で2023年に買収されたサウスカロライナ州のGateway Supply社のChris Williams氏の言葉が掲載されています。曰く:

WSOは大きな魚だ。だが小さな魚を飲み込むことを欲していない。一緒に仲間と泳ぐために群れ(スクール)に加わってもらうことを望んでいるんだ

M&AされるまでのWilliam氏の悩みは、ずばり“孤独”だったようです。ローカルな中規模の会社を率いていくにあたって抱えていた不安や問題を、誰とも分かち合えることができなかったことがキャリアでの"The biggest disappointment"だったとのことです。

WSOスクールに加わることによってそれらが解消されました。

1946年創業のニューヨーク拠点のN&S Supply社はWSOに2019年に買収されて以降、そのビジネスは88%も伸びたそうです。理由はWSOの資金的な援助でもって競合他社を買収できたからだとか。

このようにWSOは、新たなテクノロジー、資金、システム、ノウハウを傘下の企業と共有し、彼らが独自では成し遂げられなかった成果を、みんなで実現します。

一方で、買収した各(ファミリー)企業の経営者や従業員、文化、地域的な繋がりを尊重しています。WSOにおいては、M&Aのさいによく喧伝される「シナジー」や「インテグレーション」という言葉は、ちゃんちゃらおかしい"Bad Words"なのだそうです。

ユニークですね。これが彼らの付加価値であり、強さの源だと思います。

ロスト・ワールドの覇者』で書いた2019年度版アニュアルレポートも興味深いです。視野が広がるかと思いますので是非ご一読を。


【存在を知ったキッカケ】


X(旧ツイッター)でどこかの米国人投資家がHigh ROICの企業として紹介していたのを見て知る。


【初回の獲得】


2023年4月


【誰にどのような価値を提供しているか】


上記の通り。


【参入障壁】


上記の企業文化。マネできるところは少ないと思う。


【長期潮流】


  • 米国の人口動態
  • さきの金融危機の影響による、米国での圧倒的な家不足
  • 気候変動対策への意識・規制の高まり(とくにHVACにおいて顕著)
  • 米国の商業施設等の老朽化(平均築年数が50年以上)


***


WSOが産み出す企業価値をみてみます。(以下経営効率や一株当たりのFCFの数値は私の計算なので、あくまで参考値)



棒グラフはROIC-WACC Spreadです。毎年しっかりした価値を創造しています。

2024年度の実績は:

  • Net Salesは+4.6%、過去10年間のCAGRは6.4%(マイナス成長なし)
    • Same store salesは+3%
  • Operating Incomeは-1.6%、過去10年間のCAGRは8.8%(マイナス成長2回)
  • Operating Marginは10.3%、過去10年間の平均は9.1%
  • ROCEは23.0%、過去10年のMedianは22.2%
2024年2月に、傘下の企業がケンタッキー州とオハイオ州のHVAC distributorのCSI社を買収したようです。

一株当たりのフリーキャッシュフローの推移。



過去10年間のCAGRでみると12.6%。10年前から比較すると約3倍。

***

数字だけをみるとWSOは少し物足りないところはあります。ですが、その文化を知ったからには、1株たりとも手放す選択肢は無し。

ちなみに日本の中小企業ももう少しまとまればいいのでは、と思う。もしそれらの企業が統一したシステムとかバックオフィスを持っていれば、コロナ過のようなときでも柔軟な在宅対応等ができたのでは、と考えます。

情報開示:この記事を書いている時点でWSO50株保有

なんだか絵本のスイミーを思い出しますね。子供がもっと小さかった頃、よく読んだ。

Appendix



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