2023年11月24日金曜日

次の10年に向けての雑文(1) ーカタリストとしての株式投資ー

「十分というのはあなたが考えているよりも長いかもしれないわよ」

村上春樹 『ねじまき鳥クロニクル 第1部 泥棒かささぎ編』 新潮文庫

 

 投資家は、企業と人間の本質、さまざまな数字について多くを知る必要がある。

デビッド・クラーク 『マンガーの投資術』 林康史・監訳 石川由美子・翻訳 日経BP社


2014年4月に誕生したThe 3rd Man's  Fund、来年には10歳になります。これを機に年度を5月はじまりの4月終わりに変更します。たいていの米国企業は2月から3月にかけてアニュアルレポートが作成されますし、日本企業も3月が年度末のところが多いため、そのほうが都合がいいというのもあります。

また、なんとなくなのですが、自分の中で長期投資は30年という意識があります。その場合、10年ごとに前半・中盤・後半と分けられます。

ということで、来年の5月からはいよいよ中盤の10年に差し掛かることになります。中盤が終わるころには、私は63歳、ムスメは19歳、ムスコは15歳となり、こりゃ、なかなか重要な局面を迎えることになりそうです。

来年からNISAもさらに充実してくることもあって、これからは投資信託への積み立てがメインになる予定ですが、一方でThe 3rd Man's  Fundももっとクオリティを高くしていくつもりで、これまでの10年間の反省を踏まえながら、改めて投資方針を見直している最中です(Code of Conduct for next 10 years (策定中))。

それに合わせ、すこしずつポートフォリオの中身もいじっている最中で、来年の4月末まで時間をかけて質を高めていく予定です。最終的には中盤が終わる2034年の初夏の時点で株式の平均保有年数が10年になることを目指します。

その過程でいろいろ考えていることを、これから複数回にわたってつらつらと書いてみたいと思います。


夏休みに帰省した際に、立ち寄った新大阪駅の本屋さんで『一流投資家が人生で一番大切にしていること』(ウィリアム・グリーン著、依田光江・訳、早川書房)という本が目に入りました。切って貼ったようなタイトルやなあと思いながらパラパラッとページをめくっていたら思いがけず面白そうな内容だったので、ついつい「非株三原則」(参考記事『投資家K.のアニュアルレポート 2022 前編』)を無視して、どうせ新幹線での長旅のお供が欲しかったことだしと財布のひもを緩めました。ちなみに原題は『RICHER, WISER, HAPPIER』です。

著者のウィリアム・グリーン氏が著名投資家たちを取材したものをまとめた本になります。とても示唆に富んだ内容で、なかには具体的に活用できそうな(主に株式)投資法に関するウンチクもありますが、それよりも惹かれたのは、紹介されている著名投資家たちの仕事をするスタイルですね。

例えばカナダのフランシス・チョウ。

 買わないままでどのくらいいられます? 「ああ、一〇年は待てる。いや、もっとかな」。そのあいだ彼が何をするかと言えば、興味があるがまだ安くはなっていない株を勉強したり、ゴルフ練習場へ行ったり、一日に二〇〇ページから四〇〇ページの読書をしたりする。


例えばウォーレン・バフェット。

同じように、彼は 毎日の予定を自分で管理し、読書や黙考のための時間がもてなくなるような依頼はほぼすべて断って、空白の多い、すっきりしたスケジュールで動いている。

例えばニック・スリープ。

 こまごま売買をせずに動かないでいると、その時間を、学ぼうとしているテーマの本を読んだり、じっくり考えたり、話しあったりする時間に充てることができる。スリープは頭の回転が速く、ビジネスの歴史や宗教から、神経科学、スポーツに至るまで、さまざまな分野を軽やかに飛びまわり、共通のテーマやパターンを見つけだすことに長けている。

例えばポール・ラウンツィス。

「一日に四時間、五時間、六時間、七時間、は読書に充てるように努めている。とくに趣味はない。ゴルフをしたこともない。これが性分でね、もっと勉強して賢くなろうと努力するだけだ」

例えばローラ・ゲリッツ。 

週に二、三冊は本を読む一方、新聞にわざわざ目を通すことはほとんどないし、ブルームバーグの端末に刻々と表示されるニュースには目もくれない。 <中略> 投資のためのアプローチとしては、異例なほど数字から離れて教養雑学のほうに寄っているが、その土台には、深い読書と広範な旅によって視野を広げたいという彼女の信念があり、その視野の広さこそが彼女の重要な、そして不思議な強みとなっている。「オフィスで座って、来る日も来る日も財務諸表を熟読しているだけでは限界がある。私たちの仕事は真っ直ぐには進まないから」

そして場所に関しても、例えばガイ・スピアはチューリッヒの静かな郊外に電話もコンピューターもないオフィス、チャック・アクレはバージニア州の信号機が一つしかない村に本社を構えています。

時間や予定、場所に縛られず、心行くまで読書と思索に自分のペースで費やせる仕事環境・・・うーん、しびれますね。

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仕事と労働の違いは、時間を自分で自由に使えるか否かにあると思います。いかに高給を取っていようとも、他人(ボスであろうが、同僚であろうが、顧客であろうが)に時間を合わせないといけないようであれば、やはりそれは労働かと。

私も今は労働に勤しんでいるのですが、次の10年を終えるころには、おそらくもう労働をする体力も気力も無いかと思います。ただ仕事をする意欲は衰えておらず・・・それをやらないでなにをやったらいいか、さっぱり見当がつかんので・・・理想としては、静かな場所で自分のペースで心が命ずるままに「仕事」として株式投資を続けていければ、と考えています。

なにゆえ株式投資か。

もちろんファイナンス的に豊かに過ごすため、というのもありますが、株式投資そのものが好奇心を保つための触媒(カタリスト)になると考えるからです。

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なんとなくなのですが、森羅万象に共通する本質的な事象というものが、この世に存在すると感じています。自然界にあまねく存在する法則は、人間社会、さらには株式投資においても同じ形で存在する、と。

私がとっている株式投資の方法は、長期的によい結果を残し続ける企業の株式をなるべく数を絞って選定し、保有し続ける、というものです。なので、物事の本質的なことを見極めたうえで、それに沿って存在している企業を選ぶことができると、確かなパフォ-マンスがついてくるんじゃないかなあ、と。

であれば、単に財務諸表や株式指標、企業の年次報告書だけ理解するのではなく、もっともっと広く歴史や生態学等々の分野で視野を広げていくと自分で満足のできる、すなわち内なるスコアカードで満点に近いスコアをパンチできる「仕事」が出来るのではないか。

その「仕事」には納期はないし、根回しもプレゼンも必要ありません。Teamsのチャットの着信音に悩まされることもありません。奇妙なお付き合いもいりません。自分のやりたい時間にやりたい場所でできて、ネタは図書館から街角の場末までのいたるところからひろってくることができます。

それはそれは、きっと楽しいことでしょう。

***

ということで、その10年後を見据えて基礎体力をつけるため、まずはサイエンス(バイオロジー)と歴史(および人とは?的なもの)から少しずつお勉強を始めています。

サイエンスは:

  1. 種の起源 / チャールズ・ダーウィン(読了)
  2. 利己的な遺伝子 / リチャード・ドーキンス (第6章の途中)
  3. 大学生物の教科書シリーズ / デイヴィッド・サダヴァ
  4. 教養としてのエントロピーの法則 / 平山令明
歴史は:
  1. 人類の起源 / 篠田謙一 (読了)
  2. 神々の沈黙 / ジュリアン・ジェインズ(第三部第4章の途中)
  3. 言語の本質 / 今井むつみ、秋田喜美
  4. グロース「成長」大全 / バーツラフ・シュミル
  5. 銃・病原菌・鉄 / ジャレド・ダイアモンド
  6. 日本社会の歴史 / 網野善彦
  7. 岩波新書の日本近代史シリーズ (いちど太平洋戦争まで読んだ)

これにOn TopでThe Art of Thinking Clearly / Rolf Dobelli

さしあたり上記を課題図書としています。

現在、まだ家族が寝静まっている朝の一時間を確保して、サイエンスと歴史の本をそれぞれ15分、The Art of Thinking Clearlyを一章(3ページだけど)ノート片手に全集中で読んでいます。

【閑話休題】ちなみに偶然か、それとも必然なのか、『神々の沈黙』と『利己的な遺伝子』で、人の意識について非常に興味深い見解がことなった立場から書かれていて、これがなかなかに面白い。

大事なのが15分で、これはスマホのタイマーでアラームをセットし、時間がきたらきっぱりやめます。でないと字面を追うだけになりかねない。

たかが15分、されど15分、けっこう長い。あと、やばいっす、老眼。

ま、あまり高望みはせず、マンガーさんの言うように、朝起きたときより夜寝るときのほうが少しばかり賢くなっていればそれでOK、それが複利で積みあがっていけばさらにOK、てな感じで少しずつページをめくっています。うちでコーヒー片手に『種の起源』を読むほうが、会社に行って『主の機嫌』をうかがうよりよっぽどいいじゃありませんか。

苦手なサイエンス関連も、こうして少しずつ脳の許容範囲を広げたい。

サイエンスは全般的に高校のときにドロップアウトしたので、いっかい総復習をしてみたいと以前から漠然と考えていたところではあります。ただ、それだけだとなかなか行動に移るまでには至らない。しかし、株式投資というものが介在すると、できてしまう。これは私だけの特殊な事例かもしれませんが、いやはや、株式投資は知的探求を行うためのカタリストとしては絶好の存在、と思うところなのであります。

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