2026年3月24日火曜日

株式投資における確率論的アプローチ

先日録画していたブラタモリの桶狭間の戦い(全2回)を観ました。以前『FY2026 第三四半期レポート - Stage 07/40 -』で書いた通り、最近『信長公記』を読んだばかりでもあり、とても興味をもって視聴しました。

内容はもちろん面白かったですが、やっぱり全体的に織田信長は傑出した戦略家という後付けバイアスがかかっているようにも感じました。まあ、大河ドラマ『豊臣兄弟!』で小栗淳さんが演じる信長もかっこいいですしね。

でも番組内で、桶狭間決戦の直前にあった佐々隼人正率いる300人が打って出て全滅してしまった件も、今川義元を油断させるための信長による戦力だったかもしれない、というのはさすがに解釈が行き過ぎていたように思います。


いえ、途中では確かに「かも」という説明ではあったのですが、番組終盤では「地形を読み、敵の油断を計算に入れ、戦略を練り上げた信長」とうナレーションもあり、見終わったらついつい、おー!さすが天下の信長、軍事の天才だな!となってしまうではないか。

あいみょんが語っているので、おっさん連中はなおさら。

しかし佐々隼人正が打って出る前に信長と協議したという記録は『信長公記』を含め一切残っていませんし、信長が前線の善照寺砦までたった六騎で(わりかしいつも少人数で行動していたらしく、この身軽さで幾たびの窮地を逃れたが、本能寺では仇となる)出張ってきたのも今川方の動きに対するリアクションであり、戦略もへったくれもなかったんではないか。

数も圧倒的に劣勢で、信長に有利だったのはたったひとつ、桶狭間近辺の地理には慣れ親しんでいたことくらいであった。

しかし結果はご存じの通り、突然降ってきた豪雨も味方して気付かれることなく敵陣に接近し、今川義元を討ちとりました。

番組では、江戸時代に描かれた今川義元が決戦直前に酒宴を催して油断しきっている想像画が紹介されていましたが、あれこそ結果から紡ぎあげられた天才信長・愚か者義元とする大衆受けしやすいストーリーの後押しを狙ったシロモノと思われ、資料としてはいささかどうなのかと思います。

私が織田信長に興味をもったのは、田淵直也氏の『確率論的思考』(日本実業出版社)を読んだことがきっかけになります。同書で田淵氏は、織田信長が天才だったところは、この桶狭間の戦いを結果に酔いしれることなく冷静に分析し、以降はなるべく直接対決を避けに避けて自らの戦力を地道に蓄え、勝てる確実性が高くなってからしか戦いをしないように心掛けたところにある、という推論を述べています。

桶狭間の結果は自分の才能ではなく、あくまで偶然。偶然によって圧倒的に戦力で劣っている織田軍が今川軍に勝ててしまった。いざ決戦になると何がおこるかわからない、もっと力の差が少ないもの同士だったら、もっとささやかな偶然でも致命傷になりかねない。であれば偶然が入り込む余地をできるだけ排することに取り組もう・・・そう信長は考えたのかもしれません。

私自身はこの見方に少し懐疑的ではありますが。

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『確率論的思考』を手に取った理由は、清原達郎氏の『わが投資術』(KODANSHA)やチャールズ・T・マンガーの『Poor Charlie's Almanack』(日本経済新聞出版)、またちょっと記憶があいまいですがウィリアム・グリーンの『一流投資家が人生で一番大切にしていること』(早川書房)で複数の投資家が、確率(論)や順列・組み合わせの理解の重要性を説いていたからです。

その一環で手に取ったアミール・D・アクゼル著の『偶然の確率』(高橋早苗・訳、アーティストハウス)に面白い記述がありました。もともとはレスター・E・ダビンズとレナード・ジミー・ザヴェージの本『確率過程の不等式』に書かれた内容を簡単に同書で抜粋したものになりますが。以下要約します。

あなたはラスヴェガスにいます。所持金は2万ドル。やんごとなき事情で夜明けまでに4万ドルを用意しなければならない、さもないと・・・という状況に追い込まれています。

さてどうするか。

二つの戦法がある。

一つ目は、ルーレット・テーブルに行き(話を簡単にするため、ルーレットだけしかないカジノ場という設定)、2万ドルをそっくり黒(か赤)に賭けて祈る。〈大胆な賭け〉戦法です。

もう一つは、一回ごとに少額の1,000ドルをコツコツ賭けつづけて一夜を明かす。名付けて〈慎重な賭け〉戦法。

〈大胆な賭け〉で4万ドルを調達できる確率は、18/38(ルーレットの赤と黒のポケットがそれぞれ18個で合わせて36個、緑のゼロとダブルゼロがあるので、合計38ポケットある)で47%。

慎重な賭け〉で4万ドルを調達できる確率はというと・・・

詳しいことを端折るとですね、それを求める計算式は、


なんだそうです。

結果はですね、わずか11%。

圧倒的に〈大胆な賭け〉戦法のほうが確率が高い。

これはカジノのような基本的に胴元優位で一般客が不利な状態では、一発逆転を狙うほうが、つまり不当な優位に影響される機会をできるだけ減らす戦法がベターということになります。


ということはですね、不利な立場に追い込まれていた織田信長は、結果的には最適な戦い方を選んでいたことになりますかね。当時の状況で戦力小出しの持久戦をやっていたら、どんどん勝てる確率が低くなる。

ということはですね、『失敗の本質』(中公文庫)で取り上げられているノモンハンやガダルカナルの戦いは、基本的な戦力や地理で不利な状態で兵力を逐次投入(=不当な優位に影響される機会の増加)したという確率論的に言えば悪手であったから、敗けるべくして敗けたといえるかもしれません。

そうであれば、日米の基礎体力の違いを考慮した場合、米国艦隊を一網打尽にすることを目論んだ真珠湾攻撃とミッドウェイの戦い(MI作戦)は、両方とも最適解であったかもしれません。あくまで結果(ずいぶんと偶然が影響したようです)で判断されて、片一方のミッドウェイの戦いだけが『失敗の本質』で取り上げられていますが・・・

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ここから私の考え。

ジェレミー・シーゲル氏やピーター・リンチ氏をはじめ、多くの投資家や学者が指摘している通り、長い時間さえかけることができれば、株式投資は良い結果に終わる。ということは、月次や四半期や年次の結果次第でクビになったりする恐れのない個人投資家にとって、株式市場とは不当な優位にポジティブに影響される場と言える。

つまり、前述のカジノとは逆です。

となると、そのポジティブな影響にさらされる機会を増やす戦法をとるのが理にかなっているのではないか。つまり個人投資家にとっては〈慎重な賭け〉戦法が〈大胆な賭け〉をとるより、圧倒的に良い結果を得る確率が高くなる。

資金の投入先が個別の株式であれ株式の投資信託であれ、ながく市場に資金をExposeし続け、余裕ができるたびに逐次投入(積み立ては良い例)して布陣し続ければ、良い結果につながる確率が高くなる。

経済的に追い込まれたり心理的な誘惑に負けて乾坤一擲な直接対決をしてしまうことを避けることさえできれば、確実性は増すと思われます。この心理的な誘惑に対抗するのが難しいとは思いますが。

とにかく市場には居続けろ、しかしミスターマーケットとの決戦は避けろ、これにつきるのではないでしょうか。

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というわけで確率に興味を惹かれて、高校時代数学のテストで30点以上をとるのが稀だった私ですが、旺文社の『とってもやさしい数学A』を買ってきて、いそいそと問題を解こうとしています。しかし私にとっては難問ばかりで、だめだこりゃ。

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