2020年5月27日水曜日

リベラルアーツとしての株式投資

 リベラルアーツという言葉は元々ギリシャ・ローマ時代の「自由7科」(文法、修辞、弁証、算術、幾何、天文、音楽)に起源を持っています。その時代に自由人として生きるための学問がリベラルアーツの起源でした。「リベラル・アーツ」、つまり人間を自由にする技ということです。
上記の引用は、東京工業大学の上田紀行氏による『リベラルアーツを知る』という記事からになります。

おお、上記の7つの学問は人間を自由にする技だったのですね。オレの人生なんぞは、これらの学問のせいで、がんじがらめにされてしまったように思えるのだが。

ま、そりゃ、ひとえに私が至らない存在だからでしょうな。



さて、なにゆえリベラルアーツなんて御大層なものを引っ張り出してきたかというと、こちらの本を読んだからになります。




私が株式投資を始めて約15年が経ちました。もともとは株価指数に連動するETFや投資信託を保有するインデックス投資がメインでしたが、サブプライム金融危機等を経験しながら自分なりに考えて試行錯誤した結果、現在ブログでつらつら書いているような投資方法に至っています。

奥野氏の存在を知ったのは日本経済新聞に連載された記事(参考:『なるほど投資講座』と日本たばこ産業(2914)の臨時獲得)を読んだ2016年にさかのぼります。以降、氏の何冊かの著書(共著)や、農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶねの月次レポート等で彼の株式投資に対する考え方やスタンスに触れてきました。

それらにおいての一番の印象は、私が株式投資をしながら漠然と形成してきた考え方がズバッと言語化されているなあ、ということです。そうそう、オレが考えていたことはこういうことだったんだよ、と何度もうなずいたことでした。若干後付けバイアスがあるかもしれんが。

共感することが多々あったので、当ブログタイトルの「現代の資本家」という言葉を、『京都大学で学ぶ 企業経営と株式投資』(川北英隆/奥野一成・編著、きんざい)から取ってきているほどです。

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『教養としての投資』は、株式投資の初心者や若い人を念頭に書かれたのかなと思います。ただし、ある程度社会人としての実績や株式投資(それがどのような方法であれ)の経験を積まれた方でも、いちど自分の立ち位置というのを認識するのにとても参考になる本だという感想を持ちました。

第一線のファンドマネジャーとして、株式投資のみならず、21世紀の(まがりなりにも)先進国で人生を送るにあたり、どのようなマインドセットが必要か、が書かれています。小手先(別にバカにしておるわけではありません、それはそれで大事です)の投資テクニックや、指数に勝つノウハウとか以前の、本当に土台の考え方が書かれている本になります。

読む前と読んだ後とでは、あなたがいる場所が以前とはきっと異なっていることでしょう。

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詳細は読んでいただきたいのですが、氏が書かれている「労働者2.0」という考え方は、日本という先進国で生まれた幸運をフルに活かし、なおかつ義務(ノブレスオブリージュとまでは言わないけど)を全うするのに必要不可欠なものです。

そして株式投資は「労働者2.0」のマインドセットを形成するのに有力な手段となりえます。

本の冒頭で著者の奥野氏(農林中金バリューインベストメンツのCIO)はこう述べています。


 投資で成功するために重要なのは「総合力」です。総合力とは、バラバラになっているものを一つにまとめ上げる力のことです。


そして


企業の本質的な存在意義は何か? それは「社会に付加価値をつけるため」に尽きると思います。資本主義は、そのように世の中に付加価値を提供できる企業同士を「神の見えざる手」によって競い合わせることで、より効率的に機能させる近代最大の発明です。

と書かれてます。

株式投資とは上記の2つを掛け合わせる行為、すなわち自身の体験や知識、能力を総動員して世の中に付加価値をもたらす企業を選別し、投資をするということになります。

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私は思うのですが、現代の仕事、とくにホワイトカラーの領域では専門化が進んでいます。それはそれでスキルを高められますが、一方では視野が狭くなってしまうダウンサイドがあります。

また私も含め多くの方が実感していらっしゃるかと思いますが、せっかく高校や専門学校、大学等々で学んできた知識が日々の仕事に生まったく活かせていないから、なんだかなあ、と鬱屈した気分で日々を過ごされている方も多いと思います。

株式投資は、そういうアナタの視野を広め、アナタが培ってきたのに眠らせてしまってる知識や経験を再度掘り起こして有機的なものに変える機会を与えてくれます。

経営学や経済学はもちろんですが、心理学や歴史などの人文学的な知識も絶対に生かせるのです。私が言うと信頼がないですけど、たしかピーター・リンチもそんなことを言っていましたぜ。

学歴がなくても、趣味や職場(町のお役所や郵便局なんて、人間観察の絶好の場だと思う)で見聞きしたことや、通勤の駅までの10分間の道のりで仕入れた情報が、能動的に投資先を選ぶという姿勢とまじりあうと、とても有機的なものに変化します。

しかもその結果として、自身の資産が増える可能性があるのです。いや、もちろん逆の場合もあるけどさ。

もし個別の企業の選定までたどり着くのが困難であれば・・・

そういうときのためにファンド・マネジャーがいる。

途中まで自身の頭を働かせて、基準価格の推移だけでなく各投資信託の運用レポート(例として『農林中⾦〈パートナーズ〉おおぶねグローバル(⻑期厳選)』と『スパークス・新・国際優良日本株ファンド』)を、読み比べるのがいいと思います。

いったん決断を下せば、あとはファンドマネージャーが汗水たらして東西奔走してくれます。

あなたはソファに座ってバーボンでも嗜みながら、企業のCEOやファンドマネージャーらがせっせと書いてくれる報告書に目を通せばよいのです。

とても優雅な人生だ。

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これまで培った知識と経験を総動員し、脳みそに汗をかき(私の場合はわきの下に冷や汗をかくことが多いのだが、なんでかな)、投資先をきちんと選定する。そうすれば世の中は少し良くなり、資産が少し(ときには大いに)豊かになり、そのぶんあなたの人生は自由になる。

株式投資とは、現代に自由人として生きるためのリベラルアーツなのです。

情報開示:公正を期すと、『教養としての投資』は奥野氏から贈っていただいた本になります。だからといって盛ったつもりはありません。

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