プロのテニスは勝つために行ったプレーで結果が決まる「勝者のゲーム」であるのに対し、アマチュアのテニスは敗者がミスを重ねることによって決まる「敗者のゲーム」なのである。
チャールズ・エリス 『敗者のゲーム』 鹿毛雄二・訳 日本経済新聞出版
他にも「敗者のゲーム」はたくさんある。機関投資家の証券運用がそうであるように、かつては「勝者のゲーム」であったものが、時代とともに「敗者のゲーム」に変わったものもある。
チャールズ・エリス 『敗者のゲーム』 鹿毛雄二・訳 日本経済新聞出版その昔、まだ武蔵小杉がコスギと呼ばれ、その空が広かったころのこと。名前は忘れたのですが、駅前にとても昭和の香りに満ち満ちた古びた商業ビルがありました。
そのビルの5Fだか6Fくらいに黒川スポーツというスポーツ用品店がありました。現在のスポーツ・オーソリティの大きめの店舗くらい規模で、いちおう野球やランニングとかの種目ごとにコーナーがわかれていましたが、製品が思いつくままワゴンに積まれていたり、雑然と並べられていたり、所狭しとぶら下がっていたりしていて、危うく迷子になってしまうんじゃないかというくらいカオスな売り場でした。
個人的にはその雰囲気が大好きでしたね。棚卸しをしろと命ぜられたら、気絶しかねませんが。
初夏のある日、私は黒川スポーツのテニスコーナーへと足を運びました。さかのぼること一か月くらい前からテニススクールに通い始めた私(当時30歳)は、それまではスクールから貸し出されるラケットを使用していたのですが、自分のラケットが欲しくなったのです。
テニスをやる方はご存知かと思いますが、大きめのお店に行くと、色とりどりの様々なラケットが壁一面にずらりと並べられています。その数の多さたるや、もう一つの敗者のゲームにおける投資信託の多さに引けを取りません。初心者はひたすら圧倒されます。
【敗者のゲームの共通点1】: やたらとアイテムの種類が多い
現在使用中のラケット、バボラのピュアドラ、2012年版 |
私は、隅っこでストリングス(ガット)を張っていた店のおじさん(ああ、もう名前を忘れてしまった)に尋ねました。
彼はしばし押し黙って私をしげしげと眺めた後(アブナイ人かと思ったぜ)、私のスポーツ履歴やテニスをプレーする頻度を訊き、さらに一歩下がって私を眺めて、つま先から頭頂部まで一往復半にわたりスキャンした後、おもむろに一本のラケットを壁からピックアップし、「君ならこれがいい」と渡してくれました。
以来、最初の子供を授かるまで、私はチャールズの言うところの「敗者のゲーム」である週末テニスにのめりこむこととなり、いろんな草トーナメントやサークルの対抗戦、果てはテニスオフで対戦相手を求め、数多くの敗北を抱いたのでした。
楽しかったな。いまは週一回、テニススクールでエアロビ感覚で汗を流すのみである。
そして、初めてのラケットを手に入れてから約5、6年後、私はもうひとつの「敗者のゲーム」である株式投資を始めることになります。
【敗者のゲームの共通点2】: ヒマとカネができる30歳代で始めることが多い
そう、私がテニスを始めたのは、30歳代ともなると友人の多くが家庭を持ち始め、週末や連休に遊んだり旅行に一緒に行ったりしてくれなくなったためですね。かといって黙々と一人で泳いだりジムに行ったりするのもつまらなかったし・・・。
で、しばらくして、あるテニスサークルに加わったのですが、そこもほとんどが30歳代の独身の人がメンバーでした。新たに加わってくる人たちも、ほぼ例外なく男女とも私と同じような境遇でした。
株式投資を始める人も、その多くは、30歳くらいになって社会のことが理解できてきて、そこそこ貯金もたまり、なおかつ独り身でヒマっていう人が多いのでは・・・と考えます(独断と偏見)。で、仕事に夢中ってわけではない。なので、どちらかというと一発逆転的な発想に惹かれる人が多い傾向になる(もっと独断と偏見)。
さて、サークルでテニスをプレーしていると、やたらと初心者を見つけては一家言をぶつ人がいます。なんかこちらからアドバイスを求めたわけでもないのに、つかつかとやってきて「キミのバックハンドはね・・・」とか「テイクバックがなあ・・・」とかいう人が多いのです。ま、いいんだけどね。
【敗者のゲームの共通点3】: 頼まれもしないのに、初心者に教えたがる
これは株式投資においても然り。なんなんでしょうね。
初心者に接する場合は、冒頭の黒川スポーツの店員のようでなければなりません。彼は、相談してきた相手の体格、目的、スポーツ歴を測ったうえで、ラケットを選んでいます。
その結果、私に選んでいただいた一本は、テニス誌等に載っている「初心者向け」のラケットとは別のものでした。
あのね、どこの世界にも万人に共通な初心者向けってのはないのです。とくに株式投資や資産運用の世界においては、各個人の置かれた状況は、性格から余裕資金額まで千差万別です。
それなのに巷では、なぜか初心者に最適な投資方法や初心者向けの個別株式があふれていて、私としては笑っていいのか泣いていいのかよくわからない。
ちなみにテニスにおける敗者のゲームでは:
【敗者のゲーム(テニス)の法則】: 一家言を持つヤツは、その分野が弱点だ
というのがあります。
つまり、頼まれもしないのにバックハンドに関して指導してくるヤツと対戦した時は、そいつのバックハンド側にボールを集めてやればよい。さすれば、まずまともにボールが返ってこない、ということです。
人は、自分ができないことや、自身の手に負えないことほど、エラソーに教えたくなる生き物である。
私が敗者のゲーム(テニス)で身をもって学んだ数少ない教訓です。
もう一方の敗者のゲーム(株式投資)では、このあたりのことはどうなのか・・・は、ノーコメントといたします。
ただどの世界でもきちんとした知識を得るには、「お金をもらって謙虚に教える人」を見つけないといけないのは、共通かと思われます。フリーランチなんてものはない。
蛇足になりますが、敗者のゲーム(テニス)の世界では、プロの選手になりきってしまう人、っていうのがたまにいらっしゃいます。比較的多く目にしたのがラファエル・ナダル選手に影響を受けたひとですね。どうやらナダル選手には、一時期の長渕剛さんと同じように、ある特定の人たちに強い影響を与えるなにかがあるようなのです。
常軌を逸したスピンをかけるストロークが武器のナダルですが、私は、男性で筋肉を鍛えていて、プレースタイルはもとよりラケット(バボラ)やバンダナを含むコスチューム(ナイキ)すべてをナダルそっくりにしてテニスする若者を、複数人知っていました。
【敗者のゲームの共通点4】: 著名人流を名乗る人が多い
そこまで真似して弱かったら、それこそ皆のあからさまな嘲笑のまとになるので、テニスコート上でのそういう人たちはそれなりの実力を備えていたのも事実です。でないと、どんなに神経がずぶとくてもやっていけない。
ひるがえりまして、株式投資における敗者のゲームでは・・・、いや、まあ、なんといいますか、正直、名誉棄損レベルというか・・・ま、こちらも口をふさいでおこう。
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私が株式投資における敗者のゲームに足を踏み入れてから約15年が経ちます。
そして、経験が邪魔になることを知ってから約10年が経とうとしている。
ここらでひとつ、私が株式投資を始めたきっかけを書いてみたいと思います。なぜそんなことを考えたかというと、とあるところで、このたびのコロナ禍での株価急落を受けて証券口座の開設が増えていると耳にしたのと、以下の比較的初心者向けに書かれたと思われる2冊を立て続けに読んだからです。
両方とも内容的には、初心者だけでなく、ある程度経験を積んだ人があらためて自身の立ち位置を確認するのにも向いているのかな、という感想です。面白かったですね。個別の感想は、またあらためて。
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というわけで、次回は、私自身の株式投資における敗者のゲームでの第一歩を振り返ってみます。何の役にもたたないことを請け負いますが。
ただ、もしこのコロナ禍の最中で証券口座を開いた人が読者にいらっしゃるようでしたら、あえてひとつ言いたいことがあります。
貴殿がどのような投資法を考えていようとも(それが投資信託のコツコツ積み立てであろうが、高配当の個別株式であろうが)、口座を開いたきっかけが今回の株価急落を受けてのものであれば・・・
アナタにはじゅうぶん山師の気質がありますぜ。
情報開示:とくになし
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