2015年11月23日月曜日

配当、自社株、そして負債 その2 -『勝てるROE投資術』を読んで-

先日の1/2の神話再び -日本管理センター(3276)の獲得-という記事で、獲得した理由のひとつに
  • 和製銘柄にしてはROEが高く(約30%)、またそれを維持することを数値目標として掲げている
と訳知り顔で書いていましたが、果たして私自身がROEとは何かをきちんと把握している自信がないので、改めて広木隆さんが書かれた『勝てるROE投資術』(日本経済新聞出版社)を再読してみました・・・いやはや、ROEの数値をもとに判断する前に読んどけっちゅーねん。



なお、この本はろくすけさんによる『ろくすけの長期投資の旅』の「ROEの持続性」という記事で知りました。

肝心の、ROEとはなんぞや、その指標を投資にいかに役立てるか、という点に関しては実際に本をお読みいただくとして、私が少し面白いと思ったところをつらつらと書いてみます。

この本によれば、ROEは以下の3つの構成要素に分解してとらえることが一般的なようです。(後述する三井住友アセットマネジメント株式会社のレポートによれば、デュポン分析とよばれる手法)。

  1. 売上高当期純利益率
  2. 総資産回転率
  3. 財務レバレッジ

で、この三つの中から気になるのが3.の財務レバレッジ。
単にROEを上げるだけなら、借金をしてそれをすべて自社株買いに使えばよい。(p.56)
これをするとROEは高くなるけど、負債比率が上昇するので市場からネガティブな評価(つまり株価下落)を受けると書いてあり、インターナショナル・ビジネス・マシーン(IBM)が例として挙げられています。

IBMの10年間(注1)のROEの平均値は55.8%にも達していたが、配当込みの株価上昇率は年率8.4%(同2.3倍)に過ぎない (p.57)

この期間にIBMのEPSは3倍強になったようですが、これはおもに自社株買いによってもたらされており(同期間で発行済み株式が35.5%減)、その結果自己資本率が04年末の27.2%から13年末に13.5%に低下したとのことです。つまり借金して自社株買いしてたんですかな・・・

これがネガティブな評価につながり、PERも低下したとのことで・・・

むむむ、単純にPERが低いからチャンスだあ、とか言うてる私はうかつですわな。

ちょっと気になったのでモーニングスターのサイトからIBMの、いつもとは違った数値をひろってみます。



緑の折れ線は(おそらく)発行済み株数(百万株単位、左軸)、オレンジがROE(右軸)です。うん、株数がどんどん減っています。上記のグラフの期間で38%減。ROEはというと、いやちょっとすごい数字がでていますね。ほんとかよ、これ。

次に財務レバレッジの推移。



基本右肩上がりです。これだけだとトレンドしかわからないので、三井住友アセットマネジメント株式会社の~日米欧の主要企業の財務指標の比較~と題されたレポートより、ちょっと古いのですが日米欧の財務レバレッジの推移の表を以下に抜粋。


この期間の米国の数字は一番高いところでも3.0倍に到達していないので、IBMは図抜けて高い・・・ちょっとApple to appleの比較になっているのか自信がないくらいです。見当違いでしたら申し訳なし。なお同レポートには日米欧のROEの推移も出ていますが、IBMはそこでも図抜けて高いですな。

ではIBMのキャッシュフローより、過去5年間のDebtの動き。(ソースはモーニングスターのサイト

この期間ではDebt IssueがRepaymentを上回っているので負債が増えていってますね。その勢いは14年度にちょっと収まってはいますが。

それから配当と自社株買いの推移。



これでんがな、私が訴えたいのは。自社株買いが配当より圧倒的に多い。期間トータルの割合は自社株買いが約8割ですぜ。

おい経営陣、株主還元とか言いながら・・・負債発行して自社株買いでEPS達成してインセンティブもらいつつ、結果株式の評価を下げとるんやったら本末転倒やで。いらん憶測やけど。

さーて、これらを踏まえたうえで・・・

『勝てるROE投資術』より:
(ジェレミー・シーゲル教授が『株式投資 長期投資で成功するための完全ガイド』で)企業が利益を使って株主価値を生み出す方法を列挙しているが、「最も代表的で、伝統的にも重要な方法」は、
  • 現金による配当の支払い
である、と現金配当を真っ先に挙げている。(p.134)
もうね、ジェレミーさん、私もそう思います。

広木氏は、
株式会社とは何か。 <中略> 株主が出資したおカネを使って商売や事業をする - それが株式会社だ。(p.050)
と書かれています。となれば経営陣は、そのおカネを元手に儲けた分からお礼に幾ばくかを株主に還元します。これが資本主義の原理原則です。

その還元の受け取り方ですが、アナタがどこかの企業に出資していたとして、

  1. その企業の担当者がある日、家まで訪ねてきて、「アナタが保有しているわが社の株式を買い戻してあげますよ、アナタが購入した時よりも高い値段だからいいでしょう?袖触れ合うも他生の縁、じゃあね、また逢う日まで」と言われる
  2. その企業の担当者がある日、家まで訪ねてきて、「ご出資ありがとうございます、こちらが今期分の配当になります、ご査収ください。いやはや、何分このご時世でして・・・今回の増配はたった3%で恐縮至極なのですが、いろいろ手は打っておりますんで、今後も末永くご愛顧のほどを」と配当をキャッシュで手渡される
のどちらがナチュラルと思いますか? 私は2です。ちょっと極端な例えですが。

というわけで、今後の銘柄獲得は、このあたりも留意して選択していければなあと考えます。もう獲得してしまっているものは・・・面倒くさいので目をつぶっておこう。ははは。ひょっとしてIBMよりすごい数値だったりして。

さいごに『勝てるROE投資術』より、投資をするにあたり踏まえておくべき言葉を。
 配当や自社株買いをすると、EPSやROEは上がる。ただ、それは会計的に、計算上、上がるのであって、それによって企業価値や株主価値が増加するわけではない (p.155)
自社株買いは結局のところ、それによって株価が値上がりするキャピタル・ゲインを通じてのみしか、投資家へ利益を還元することにならない (p.156)
情報開示:とくになし
(注1)2004年から2013年

それにしてもIBM、正式名称はインターナショナル・ビジネス・マシーンですか・・・なんかコイツを連想してしまうんで困ったな。
関連記事配当、自社株、そして負債

0 件のコメント:

コメントを投稿