2015年2月11日水曜日

長期投資における大罪 Envy 

「それに、ひょっとすると、あなたが自分で気づかなかったことが何かあるんじゃないですか・・・・・・ちぇっ、とんでもない白痴めが!」彼はもうすっかりわれを忘れて叫んだ。
「ちゃんと話すことだってできやしないんだ!」
 ガーニャは、一度悪態をついて、しかもなんの抵抗も受けなかったので、ある種の人たちによく見うけられるように、しだいに自制心を失っていった。彼はもうすっかり憤激してしまって、もうすこしそのままにしておいたら、唾を吐きかけたかもしれなかった。しかし、ほかならぬこの憤激のために、彼は盲目にもなってしまったのである。

ドストエフスキー 『白痴』 木村浩・訳 新潮文庫

カトリック教会では以下の7つの事柄を罪の源としています。

  1. 傲慢
  2. 貧欲
  3. 嫉妬
  4. 憤怒
  5. 貧食
  6. 肉欲
  7. 怠惰

もともと若干傲慢な気質のガーニャことガヴリーラ・アルダリオノヴィチくん、上記引用の例でいくと4の憤怒の罪を犯しています。でも、彼はなんでこんなに激高しているのでしょうか?

それは3の嫉妬(ねたみ)が原因です。わずか2時間足らずでエパンチン将軍家の娘たちに信用されてしまったムイシュキン侯爵にたいする嫉妬の念が、彼の心臓を刺したからです。

もともと頭脳明晰なガーニャも、嫉妬のおかげで激高し、その結果冷静な判断を失う・・・嫉妬ってこわいですね。

私は、長期投資に対する一番の大罪は嫉妬(ねたみ)とおもいます。なぜこんなことを書いているかというと、先日の妻が外出した休日に、映画『ゴッドファーザー』Part I & IIを見ながらジェレミー・シーゲル氏による『株式投資の未来』(瑞穂のりこ・訳 日経BP)をパラパラめくるという贅沢なひと時を過ごしたからです。

その第10章にフィリップ・モリスの1992-2003年のケースについて書かれています。(現在のようにアルトリア・グループ(MO)とフィリップ・モリス(PM)に分かれる以前のフィリップ・モリス)

この期間でフィリップ・モリスは一度も減配せず、93と97年を除き毎年増配したそうです。その結果、92年から2003年の4月4日の期間で配当を再投資した投資家は、保有株数が倍以上増えたことになり、2003年末の株価上昇の恩恵をうけることになります。

その結果、トータルリターンは、S&P500を上回ったとしています。ブラボー! ブラボー!

でもね、そう簡単に言いますけどね、実際にこのような行動をとるのは並大抵のことではありません。たとえ企業のファンダメンタルをしっかり理解したうえで銘柄に対する確信を持っていたとしても、たとえシーゲル氏の著書を何回も読み直していたとしても、とても困難です。

あなたも私も人間です。嫉妬(ねたみ)を持っています。こいつが恐るべき邪魔をします。

詳しくは『株式投資の未来』に書かれていますが、同期間中はフィリップ・モリスをはじめ、タバコ企業にはネガティブなニュースのオンパレードです。特に1999年以降は訴訟と賠償だらけです。株価は冴えません。

それだけなら、今現在『株式投資の未来』を読んで知識を得ているあなたなら問題ないでしょう。そうはいっても、生活必需品(?)で増配当を繰り返した(ている)実績のある銘柄を持ち続ければ、きっと長期的には報われる・・・

しかしながら、一方で別の投資方法(それがアリババであれ、FXであれ、Jリートであれ)で短期的に大きく儲けた話がちらちらと耳に入ってきます。ことにITテクノロジーが発達している現在では、その手のニュースが嫌でも目に飛び込んできます。こいつがやっかいですね。

ここでアナタ(=私)が嫉妬(妬み)にとらわれるか否か・・・ゴッドファーザーのドン・マイケル・コルリオーネが言うところのsmart move(詳しくは映画を観てください)に走ってしまうかどうか・・・嫉妬というダークな感情に飲み込まれ、アナキン・スカイウォーカーがたどった道をなぞるのか・・・長期投資をするうえでキモのところですね。

例として1999年1月から2000年3月のMOとNasdaqの株価の動向を見てみましょう。
株価の推移だけで行くとMOが約‐50%、ドットコムバブルの波に乗っているNasdaqが約+100%。IT関連の銘柄しだいでは、もっとすごい差があったでしょう。

こういう状況では、もしかしたら居酒屋でニヤニヤした同僚や友人から派手なお話を延々と聞かされるかもしれません、かたやアナタの保有銘柄は海底深く沈んでいるというのに・・・

ここでアナタがsmart moveに走るか否か、それは自身をどれだけ嫉妬という大罪から解放できるか否かにかかっています。

話は変わりますが、私は日本人の弱点はこの嫉妬(妬み)だと思います。

むかし米国の大学に留学していたころ、現代日本の社会みたいな講義がありました。1990年初頭の日本経済は飛ぶ鳥を落とす勢いだったので、こういうクラスが結構あったのです。

そのときのプロフェッサーが、日本には「出る杭は打たれる(英語でナントカnail struck downとか言っていたけどよく覚えていない)」という表現があるが、キミタチ、じゃあ、いったいその杭を打つのは誰なのか、あるいは何なのか、見当がつくかい?と問いかけていました。

私はそんなこと考えたことがなかったので、うーん、なんだろうと考え始めてしまったため、プロフェッサーがその後どういうふうに講義を続けたか聞いてませんでした。

いまとなっては、出る杭を打つもの、それは嫉妬や妬みの感情なんじゃないかと思います。出る杭は打たれるという表現がいつから使われているのかは知らないですが、比較的似たような人々で構成され、格差が少ない恵まれた日本社会が、皮肉なことに強い嫉妬が生まれる温床を育んでいるのかなと思います。

なんせ、著名人や有名人がちょっとしたアレをやらかした時の世間の反応たるや、すさまじいものがありますからね。あれ、ふだんから蓄積された妬みからきてますよ。

とにかく嫉妬から自身を解放するのが、投資をするにあたり一番大事と思います。いろんな理論や用語を学んだり、情報を収集することよりも、もっともっと大事です。

なんてことを思う、マクド(MCD)が叩かれまくっている今日この頃でした。

情報開示:この記事を書いた時点でMO180株、MCD33株保有


2 件のコメント:

  1. 私も、シーゲル氏の著書が大好きです。
    株価が下がった場面で配当金再投資をすれば、それまでと比べ、同じ金額を支払っても、取得できる株数は増加します。
    しかし、株価が下がっているということは、業績や先行きがダメダメであることが往々にしてあるわけです。
    現在のMCDも、まさにそうです。
    おっしゃるとおり、この局面で淡々とMCDに再投資をするのは、勇気が必要です。
    DRIPが使えれば、放置し続けておけばいいのですが、日本の証券会社ではこれができませんから、手動でやらなきゃならないのが、難しい点です。

    返信削除
    返信
    1. オサムさん、コメントありがとうございます。
      シーゲル氏の著書は、自身が発見したことを楽しく皆とシェアしますみたいな感じがあっていいですね。あんまりエラソーではなく、なんとなくファーブル昆虫記的な親しみやすさがあります。
      日本の証券会社でDRIPが使えればありがたいですが・・・。

      削除