2020年4月29日水曜日

米国株式のワイドモート -その2 オール・カウントリーの二つの理由-

 だがコンダボルは、この国で声を上げるのは当然だと考える。「今までの自分を捨てるとか、そういう話じゃない。みんなが力を出し合って、これまでとは違う何かを生み出すということ。新しい考えや新しい人間が入ってくるたびに変わっていく ― それが米国なんです」

ミシェル・ノリス『白人が少数派になる日』ナショナルジオグラフィック 2018年9月号・・・コンダボル氏は南アジア系コメディアン 
米国株式のワイドモート -その1-』からの続きです。

ちょっと話がそれますが、米国がユニークなのは、自分たちの流儀をそれ以外の国や地域に押し付けようとしていないことです。

私は思うのですが、米国が積極的に他国をどうこうしようとおせっかいなことをやったのは、戦後の1950年代の一時期だけです。あのアレン・ダレスやジョン・フォスター・ダレスが要職についていて、ソビエト連邦の魔の手を阻止するために手を差し伸べた国が、ことごとく共産主義になっていってしまった、あのころだけです。

柄にもないことをするから、世界地図が真っ赤になってしまったじゃないか。 マイケル・コルリオーネも、命からがらキューバから脱出する破目になっていたぞ。

米国は国内のことで手一杯なのです。かの国ほど人々に対してフェアであろうとする国は他にないもんだから、世界中から人と富が押し寄せてきて、それへの対応でいっぱいいっぱいなのです。国外に注意を払う余裕はいつだってない。二つの世界大戦にも、なかなか参戦しなかったではありませんか。

ただ図体がでかいから国内向けに何かすると、その影響で諸外国が振り回されてしまうだけです。最近米国は「アメリカファースト」になり果ててしまった、という非難を聞いたことがありますが、彼らは昔っからそうです。


***

ちなみに米国人は上から目線の押しつけがましい国民と思われているフシがございますが、そんなことはありません。モノの言い方を知らないだけです。

上から目線なのは欧州、特に英国人です。ただし彼らはモノの言い方をわきまえています。

米国人は自分たちができているのだからアナタがたも同じようにできるはずであると考え、欧州人はオレたちの言うとおりに従うのがキミたちにとって最善と考えております。そこの意識の差が世界史における大英帝国と米国の持続力の違いに出てきています。

***

 「ラティーノ」であるかどうかは、何よりも、米国より南の土地にルーツをもつ人々が紡いできた物語を共有しているかどうかということだ。その物語はほぼ例外なく、仕事や成功のチャンスを求めて、米国を目指す労働者の旅だ。

エクトル・トバール 『米国の未来を握るラティーノ』 ナショナルジオグラフィック 2018年7月号 
 イスラム教は米国でも最も多様性に富む宗教の一つで、信徒のルーツはおよそ75ヵ国に及ぶ。全米各地を訪れて気づいたのは、同じムスリムでも、人種や慣行、社会階層、文化、言語が多種多様だということ。私がこれほど多彩なムスリムが集まる光景を見たのは、ハッジ(大巡礼)の期間にサウジアラビアの聖地メッカを訪れた時くらいだ。

レオラ・ファデル 『米国で生きるムスリムたち 』ナショナルジオグラフィック 2018年5月号  
新たな価値観を持った人々に対し、できるだけフェアに対応しようとアタマをひねっていることが米国社会の多様性の発展につながり、それがダイナミズムを生み出しています。

これらの多様な人々や文化の融合は、一昔前までは欧州や日本列島のように地理的に限られたエリアでしか発生しませんでした。まともな交通手段は船くらいでしたからね。しかし今や人やモノ、情報の輸送・伝達手段は飛躍的に発展しています。米国くらいの地理的規模が、多様性の融合の場としてちょうどいい塩梅になっているのではないでしょうか。

そしてそれは端的に米国株式市場にあらわれてきています。革新的な技術やアイデアをもたらす企業、世界中の人々に対しフェアなサービスを提供する企業が存在し、それらの株式をLongしたりShortしたり、モノを言ったりインデックス(つまり沈黙)だったりする多種多様な人々が世界中から参加します。

企業も株主に対して出来るだけフェアであろうとするので、せっせと配当を出し、自社株買いをして、四半期ごとに情報を開示するのです。なまけていると、バフェットにちくりとやられ、アックマンに噛みつかれ、デイビッドにアインホーンされてしまいますからな。

そしてそれらのダイナミズムが世界中からさらなる投資家を招き・・・もう吹けよ風、呼べよ嵐ですな。

その結果、株式市場の本質的な価値が上がり、効率的になるのです。 

かような国・地域は他にありますかな。

***

あんまり米国ばっかり見たので、ちょいとほかの国や地域を見てみましょうか。まず私が投資を本格的に始めた2006年ころにさんざん持て囃されていた「新興国」市場。

 「ムスリムにとって、米国はとても恵まれた場所です。イスラムの教えを自由に学べますから」とムサは話す。「(スンニ派が多数を占める)マレーシアでは、自宅にシーア派の文献があるだけで逮捕されかねません」

レオラ・ファデル 『米国で生きるムスリムたち 』ナショナルジオグラフィック 2018年5月号バクリ・ムサ氏はマレーシア系米国人の外科医

よく「新興国」と誤って使用されているMSCI Emerging Market指数の構成国をみてみると、中国にインド、ペルーに韓国、マレーシア等々・・・日本よりも歴史ゆかしい国々ばかりではありませんか。どこが新興国やねん、失礼やで。

ということは、これらの国々は日本と同等、あるいはそれ以上にしがらみや暗黙のおきて、排他性というのが強そうですね。

私自身これらの国々のGDPや、そこに暮らす人々の生活水準が飛躍的に伸びるであろうことに異議はありません。しかしそれがそれらの国々の株式市場にフェアに反映されるかというと、そうは思いません。

インド? あそこは多様性というよりカースト制や。私がかの国の株価指数に投資していいと判断するまで、あと数世紀は必要だ。

中国? かの地のインターネットで「天安門」という言葉が自由に検索できるようになったら検討に値するかな。

マレーシア? 私が米国に留学していた90年代初頭は、マレーシアから中国系の人がたくさん来ていた。聞けば、政策で中国系の人は自国のマレーシアの大学になかなか行けなかったらしい。なので半ばしかたがなく米国の大学に来ていたけど、私は思うんですが、そんなことをするとますます中国系の人たちが豊かになってるんじゃないかな。おまけに90歳の首相が誕生したりしたし。さすが新興。

日本。 

 ニューヨークのブルックリンからやって来た私にとって、東京を旅するなかでたびたび印象に残ったことの一つが、多様性の欠如だった。

ニール・シェイ 『トーキョーを歩く』 ナショナルジオグラフィック 2019年4月号 

日本は個別企業だね。

それにしても雑誌『ターザン』の編集者と読者が、同誌に採用されているモデルたちが、ある特定の人種に偏り続けていることを恥ずかしいと思う日が来るのだろうか。

NHKの『おかあさんといっしょ』という番組タイトルの是非が真剣に問われる日はいつになるのだろう。N国の人におかれましては、ぜひここらあたりから攻めてもらいたい。新たな支持層を得られると思う。

***

よくフィナンシャル・プランナーが、おすすめとして全世界の株価指数に連動するインデックス投信(もしくはETF)を挙げるのを目にします。インデックス投資は悪くない手法だと思いますし、私も毎月先進国株式指数の投信を毎月積み立てていますが、なんでわざわざ全世界の株価指数なんですかね。私はちゃんとした理由を聞いた記憶がない。

私が考えるに、そこには二つの理由がある。

まず一つ目は、責任回避。

どこかの一国の株価指数に連動する投信を進めて、それが他国の指数と比べて劣後した際に、周囲から突っ込まれるのを回避したい心理が働いているのだと思う。そりゃそうだわな。彼らは値札(株価指数と信託報酬)しか拠り所がない。したがって結果が思わしくない場合は「んなこといったって、どこの国も似たようなもんだからさあ」と言い逃れができるセイフティネットが必要なんだろう。株価指数・みんなで落ちれば・悪くない、といったところかな。

もう一つの理由は、その昔、ある書籍で全世界の株価指数(各国・地域の時価総額の割合に合わせたもの)に投資するのがクールだぜ、と書かれていたのが大きいと思う。

負けず嫌いで斜に構えたがる傾向の人々がそのクールなアイデアに飛びついて喧伝したので、コピー&ペースター的なフィナンシャル・プランナーのあいだでスタンダードになったんじゃないかな。

その本を書いた人が誰なのかは「言ってはいけない」らしいので、一介の臆病者の株式投資家に過ぎない私としては、口をつぐんでおくしかない。

***

最後に。

よく著名な投資家、たとえばウォーレン・バフェットやエドワード・O・ソープとかがインデックス投資を薦めたりしていますが、それはS&P500を指しています。どちらかというと学者肌系の人々が国際分散とか言っていますが、その人々がどれだけリッチなのかというところは、いささか疑問が残るところではある。


世界初のインデックス・ファンド を設定したジャック・ボーグルさんは、著書『マネーと常識』で、ひたすらS&P500の投信を連呼していました。それ以外は考えなくていい、と。それが単なるホームバイアスによるもの、とお考えのようでしたら、片腹イタいですね。

情報開示:とくになし

0 件のコメント:

コメントを投稿