2021年12月19日日曜日

ワン・ステップ・ビヨンド その1 -ステップ(9795)のレビュー‐

「寒月さんも理学士だそうですが、全体どんなことを専門にしているので御座います」「大学院では地球の磁気の研究をやっています」と主人が真面目に答える。不幸にしてその意味が鼻子にはわからんものだから「へえー」とは云ったが怪訝な顔をしている。「それを勉強すると博士になれましょうか」と聞く。「博士にならなければ遣れないと仰っしゃるんですか」と主人は不愉快そうに尋ねる。「ええ。只の学士じゃね、いくらでもありますからね」と鼻子は平気で答える。

夏目漱石 『吾輩は猫である』 

2016年から保有している学習塾のステップ(9795)の事業報告が送られてきたので、レビューします。ちなみにこの会社の定時株主同会は藤沢駅前にあるステップ本部で開催されるので、神奈川県在住の私としては各駅停車の列車に乗って出かけていきたいところなのではありますが、いつも週末なので参加できません。土曜日に6歳と3歳の我が子供たちをほったらかして株主総会なんぞに顔を出したりした日にゃ、ワイルドワイフからどのような苛烈な報復をされるかわかったもんじゃありません。平日開催だと、有給休暇取ってコソっと行けるのですが。

9795を獲得・保有している理由は以下の通りです。

  • それでも日本は世界有数のリッチな国であり、莫大な資産を有している。そして多くのモノがコモディティ化してしまっているほど豊かな我が国において、お金の使い道はコトに向かっている。
  • コトにもいろいろあるが、漱石の時代から脈々と続く流行に左右されないコトのひとつに、我が子・我が孫への教育がある。
  • 我が国の教育は独特の進化を遂げている。一例でいうと、どう考えても大学の入学や卒業とかのタイミングは他の先進国で一般的な9月、6月に合わせたほうが合理的なのであるが、それすら変えられない。この教育界ならびに新卒一斉採用にこだわる産業界の硬直性は、そう簡単には変わりそうにない、残念ではあるが。
  • そして大学や高校などの教育界には、特有のヒエラルキーが巌のごとく頑丈にそびえたっており、おそらく核兵器をもってしても破壊は不可能である
  • そのガラパゴスな業界を熟知しており、さらに神奈川県のみという地域密着にこだわることによりそんじょそこらの全国展開型学習塾につけいるスキを与えない9795は、この先そうそう経営がおかしくなることはない。
  • 9795の株式を保有することにより、6歳のムスメと3歳のムスコの教育の情報収集が可能。

最後のは完全に個人的な理由ですな。ま、私はこの標準的に質の良い人材を大量に生産し、いくばくかのとてつもなくイタい方向にズレた人たちを生み出してしまうこのガラパゴスな教育システムに対しては、かなり批判的なまなざしを注いで入るのですが、現実問題、いざムスメ・ムスコが中学・高校と進学していくとなると、そうそう理想ばかり言っていてもしょうがないところもあり、まあ複雑な心境ではあります。

神奈川限定にすることにより親切丁寧な対面授業を提供してきた9795は、此度のコロナ禍で大きく打撃を受けたましたが、第43期には見事復活してきています。6月には生徒数が創業以来初となる3万人を突破し、期中平均生徒数も前年比6.6%増だったそうです。

報告書曰く、コロナ禍でオンライン授業の内容が充実し、その後対面とオンラインを選択できるハイブリッド型のシステムの稼働や、緊急事態宣言下の授業料減額等の機敏なアクションが多くの家庭に支持されたためとあります。

また令和3年の生徒の入試結果も(あいかわらず)好調だったようで、例を挙げると、神奈川県の学力向上進学重点校である横浜翠嵐・湘南・柏陽・川名・厚木の5校すべてで合格実績がナンバー1だったそうです・・・こうして校名を一生懸命書いているのも私自身の意識をガラパゴス化させるための努力なのです・・・翠嵐・・・なんと読むんだ・・・これ読めたらそりゃいい大学に行けるよな。だれか親切な方、教えてください。

というわけで、

長期的な潮流: 普遍的な教育への関心 x 日本(神奈川)における潤沢(?)な個人資産
付加価値: 神奈川県独自の教育事情に根差した地域密着の手厚いサービスと、それによる素晴らしい(と言っていいものかどうか)実績
競争優位性:地域限定ならではの質の良い講師による授業と、口コミ評判

を備えた、それを価値と認める人々にはじゅうぶん価値を届けられる企業と判断しています。そして、この9795がやっている一見地味ではあるが手厚い対面を重視したサービスというのは、そうそう簡単にマネできません、すくなくとも神奈川県内では。またオンラインで簡単にひっくりかえされるものでもないと考えます。

参入障壁・・・というよりは、独自の生態系を作り上げていると言ってもいいでしょう。ガラパゴスのなかのガラパゴスです。

では9795そのものは価値を増大し続けているのでしょうか。

2010年からのROICとWACCの推移をみてみましょう。



最近読んだ本からの習いたての知識で計算したので、正しいかどうかは自信がないのですが・・・。また黄色く塗っている箇所は数字が入手できていないので、適当に入れています。

それを踏まえたうえで、2020年以外は一貫してROICがWACCを上回っているので、確実に企業価値は増大していることが客観的に裏付けられています。

2020年は、おもに神奈川県西部の田舎の方を地盤としてきた9795が、子供の数で言うと大票田である東部(横浜・川崎方面)へ勝負をかけるべく、金に糸目は付けないとばかりに動き始めた年なので、例外的なんですわな。

報告書には横浜・川崎の想定市場規模と現状のシェアが事細かに分析されており、その末尾に:

 今後、横浜市と川崎市に戦略的に注力し、強力なスクールネットワークを形成していくことは、当社にとって10年掛かりの大きな取り組みになります。

と書かれてありました。いいですね、ムスメとムスコ共々、手ぐすね引いてお待ち申し上げます。

というか、一説によると、ステップに入校するのは一苦労らしい・・・

という次第で、個人的事情と相まって、手放す理由はありません。

最後にRisk&Opportunity。

Risk: 地震、富士山の噴火、ゴジラの鎌倉上陸
Opportunity:  県東部への進出

Riskを鑑みるとこれ以上のポジション引き上げもどうか、なので、このまま何も足さず何も引かず、引き続きHOLDです。

情報開示:この記事を書いている時点で9795x900株

JAZZのジャッキー・マクリーンの迷盤です。正直おススメしません。


しかし以下2枚はおススメです。いいですよ、赤い方はとても哀愁が漂うサックスです。

 

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