駐車場でブルーバードに乗り込むと、そばにいたときは意識しなかった佐伯奈緒子のほのかな香水の匂いがした。さすがに女の武器と言われるだけあって、不思議な作用をするものだ。青梅街道に出て、小止みになった雨の中を新宿へ向かって走り出したとき、遠くかすかにパトカーのサイレンが聞こえたような気がした。サイレンは私の頭の中で鳴っていたのかもしれない。
原尞 『そして夜は蘇る』 HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS No. 1930探偵沢崎、改め澤崎さん、香りはなにも女だけの武器とは限らない。いわゆる日用雑貨・生活必需品を提供する大企業も、おおいにそれを使って人々をたぶらかしている。確かに貴兄のブルーバードにファブリーズは無いであろうと推察するが・・・しかし私立探偵とはいえ身だしなみには、多少は気を配るはずだ。整髪料、スキンローション、歯磨き粉、シェービングクリーム、洗剤、石鹸・・・
探偵、一度ドラッグストアを覗いてみるがいい。成分表に「香料」の2文字がない製品を見つけるのは、いまどき公衆電話で話し込んでいる女子高生を見つけることと同じくらい難しいに違いない。
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ウィッチクラフト作戦での獲得企業第一弾(第二弾以降があるのかは知らんけど)として、フレーバー&フレグランス業界大手のインターナショナル・フレーバー&フレグランス(IFF)を獲得しました。ゼネラル・ミルズ(GIS)を全株放出した資金でマネーボールしています。
Yahoo! Financeより、過去一年のIFFの株価チャート、赤丸が大まかな獲得のタイミング |
IFFは生活必需品や食品メーカーに、香りとフレーバーという側面から製品開発を支援・原材料提供(co-create)している企業です。2017年度の10Kレポートによると、従業員は約7,300人(うち米国で1,800人)、37の生産拠点(日本では御殿場にある)と69のCreative Centerを擁し、162か国で提供されている46,000の製品の開発や生産をサポートしています。
15年連続増配中です。
フレーバー&フレグランス業界は、2017年は約$24.8Bのマーケットサイズだったそうで、今後2021年までに毎年2-3%成長する見込みのようです。
ちょっと業界のマーケット・シェアを眺めてみましょう。下記のデータはLeffingwell & Associatesのサイトから取得しました。
IFFはずっと第3位でしたが、最近6番手あたりだったイスラエルのFrutarom社を買収することになったようで、そうなると順位を一つ上げることになります。まったく人がブログ書いている最中に余計なことしやがって。記事の予定が狂っちまうだろ。
なお、さしあたり当記事では2017年のアニュアルレポートの数字を使っていきます。財務諸表とかは今後大きく変わってくることでしょう。
日本の高砂香料工業株式会社が7位ですね。確かにIFFがトップ4と10Kに書いてある通り、4位と5位の間に少し距離が空いています。
セグメントはフレーバーとフレグランスの2つで、2017年度の売り上げは前者が48%、後者が52%です。
フレーバーは主に以下4つの分野の成分(おそらく粉末状)を提供しています。
- スープ、ソース、調味料、簡易調理食品(味の素のクックドゥみたいなやつ)、牛・豚肉やチキン料理、ポテトチップ等のスナックに使われるセイボリー
- ジュースや炭酸、アルコールなどの飲料
- ベーカリー、キャンディー、ガム、シリアル等のスイーツ
- アイスクリームやチーズを含む乳製品
- 香水メーカー
- 洗剤や柔軟剤、ホームケア、ヘアケア、トイレタリー用品を扱っている日用品メーカー
- 上記メーカーの外注先
地域ごとのSalesの割合は:
ビジネスの肝として、
1)新興国の需要増、とくに中東とアフリカの伸びを逃さない
2)顧客のニーズの変化に素早く、きめ細かく対応する
の2点が挙げられています。IFFの顧客の上位25社が、Salesの50%を占めているとのこと。ま、だいたい想像はつきますね。
IFFは11,000の原材料を約3,000のサプライヤーから調達しているそうです。このへんは結構規模の勝負かもしれません。
また、特にフレーバーの分野では、比較的小規模な食品企業の要求を満たすことを念頭に買収を行っているようです。で、Frutarom社は、伸長著しいナチュラル分野の中・小規模の顧客を多く持っているとのことで、戦略に沿っていますね。
Revenue、Operating margin、ROAの推移。
数値のソースはモーニングスターのサイト |
他企業でも多く見受けられるように、17年度のROAの値の低下は、税制改革の影響による純利益減が大きな理由。
純利益の利回りは7%。
Capexの割合は低いのですが、ここの業界もM&A勝負のようで、投資キャッシュフローが大きくなっています。
ただ2017年度のSalesは9%の伸びで、そのうち買収による効果は5%なので、既存のビジネスもきっちり増えています。
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探偵、わかっているだろうが、世界の人口はどんどん増えていき、新興国の生活水準は上がりつつある。そうなれば、よりいっそう生活必需品のニーズが高まり、その結果IFFの懐にキャッシュが転がり込むことになる。単純な方程式だ。
フレグランスの力を侮ってはいけない。私なんぞ、トイレスタンプのフレッシュソープの香りを楽しむために用を足しに行っているようなものだからな。
フレーバーときたら、これはもう言わずもがなだぞ、探偵。たとえ高級グルメに縁がなくとも、誰だってポテトチップスのフレーバーには大なり小なりこだわりがある。私はコンソメ、私のワイルドワイフはうす塩味だ。おかけでここ数年来、コンソメ味のポテトチップスとは縁がない。
探偵、なぜか哀しくなってきたぞ。今日のところは、この辺にしておこう。
情報開示:この記事を書いている時点でIFF15株保有
【参考資料】農林中金バリューインベストメンツさんによる米国株式長期厳選投資戦略 投資事例の紹介(IFF社)
【Appendix】
10Kレポートより |
【おまけ】
IFFとどれくらいかかわりがあるか不明ですが、以前所有していたゼネラル・ミルズ(GIS)の、私が唯一関心のあった製品であるOLD EL PASO(参考記事『ロッカールームにて -ゼネラル・ミルズ(GIS)とJMスマッカー(SJM)の比較ー』)をスーパーで発見しました。関心のある方は是非どうぞ。私はまだ食べていないけど。
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