2018年5月16日水曜日

株式への長期投資という選択 その1 -農林中金バリューインベストメンツでの座談会-

物事の本質は時代が移ろっても変わらないものである。大事なことは、資本家として(その投資金額がいかに小さくとも)企業の営む事業や企業経営者を主体的に選択し、その投資先企業の企業価値を時間をかけて楽しむことである。
奥野一成 / 川北秀隆 『京都大学で学ぶ企業経営と株式投資』 きんざい
誰かが誹ったにちがいない。GW明けの小雨がぱらつく肌寒い水曜日の夜、『新たなる情報源 ー農林中金<パートナーズ>米国株式長期厳選ファンドー』というロクでもない記事を書いてしまったがために農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)に目をつけられた投資家K.は、東京メトロ神田駅から徒歩約10分(迷ってしまい15分、JR神田駅前のうまそうな飲み屋街を横目で見ていて結局計20分)の鎌倉橋のたもとにある農林中金バリューインベストメンツのオフィスに出頭を求められた

鉄格子が入った小さな窓しかないコンクリートの壁に囲まれた一室で、パイプ椅子に座らされ、冷めきったカツ丼を食いながら、同社の法務部および弁護士から約2時間にわたり、業務妨害罪・名誉毀損罪・信用棄損罪等々の可能性に関する過酷な取り調べと警告を受けた・・・というのは冗談で、実のところは主に機関投資家に投資助言を行うNVICのCIO奥野氏をはじめとするお三方が主催した座談会にお招きいただいたというのがホントのところです。座談会は私を含めた計3人の投資ブロガーと、SBI証券からの立会人2名とともに、全面ガラス張りの会議室でやたらとおいしいカツサンドを食べながら行われました。



この座談会は私にとってはいろいろ投資方法を考えるよい機会となり、そこでいただいたいくつかの書籍からの引用とあわせて、その考えを複数回にわたり記してみたいと思います。

NVICは、「農林中金〈パートナーズ〉米国株式長期厳選ファンド」の個人投資家向け公募設定を機に、一般的な日本人にも、利の乗らない貯蓄や投機的な金融商品ではなく、腰の据わった株式長期投資を訴求していこうとのお考えのようで、その一端として今回の座談会という試みになったようです。

他の2名の方はともかく、私を選ぶとは・・・NVICさん、人選誤りましたなあ。

それはさておき、私自身、金融・投資関係のプロと話したりするのは銀行で普通預金口座を開いたとき以外なく、またブロガーや投資をやっている方とお会いする機会もこれまでなく(あ、10年以上前にカン・チュンドさんのセミナーに参加したことがあったか)、NVICさんの方でも初の試みということで・・・

いざ座談会開始というときには、あらかじめ打ち合わせをまったくやらずにリングに上がってしまったプロレスの6人タッグマッチのような雰囲気でした。いったいどうなるんだ、ゴングが鳴ったぞ。

と、やにわに奥野氏がすごい勢いでご自身の経歴を語りだすことラッシャー木村のマイクパフォーマンスのごとし。これがけっこうおもしろかった。意外にも長銀やUBS証券で債券トレーダーとして腕を鳴らした(勝ち続けたらしい)経験があるそうで・・・勝負師ですね。

あの・・・藤巻健史氏については、どう思います?

という質問がノドまで出かかったのですが、私自身の緊張がまだほぐれていなかったのと、奥野氏が滔々と弁舌を振るっておられこともあったし、この質問をすると場外乱闘で話の収拾がつかなくなってしまいそうな事態を危惧したため、やらなかった。

その後自由な形式でのディスカッションとなり、他の2人のブロガーの方からはするどい意見や質問がありましたが、私からは

(NVICの)皆様の一日はどのように過ぎていきます?

といったようなものだった。

なんじゃ、それ。

が、しかし、NVICで働いている投資のプロの方々がどのような仕事っぷりをしているのかは、非常に興味があるところだったのです。

で、答えは、基本的なOffice Hourは8:00-16:00なのだとか。しかも早く退社を促すような文化があるようです。いいですね。奥野氏は店が開く前から居酒屋に居座っているとかいないとか。どんなんやねん。

私も最近思うんですが、来るべきAI社会では、ホワイトカラーは頭の冴えが拠り所です。なんせAI(的な機能)は物事の意味まではわからないようなので(*1)、物事の背景をきっちり理解して付加価値(バリュー)を加えて判断を下すところしか、ホワイトカラーの存在意義(あえてバリュー)がありません。

頭のさえた午前中が勝負で、昼食後はだらっと事務処理、あとは日の高いうちからぼーっとカフェやお風呂でのんびり、というスタイルじゃないと、正直やっていけなくなるんじゃないかと思います。おまけに週休3日くらいでいい。

それより時間を取らなきゃならない仕事をしていると、そのうちAIに取って代わられますぜ。アタマ使ってないんだから。私も人のことは言えないが。

話を元に戻すと、NVICのオフィスには集中的に考えるために引きこもるスペースとかもありました。そこで電話や上司に煩わされることなく、アニュアルレポート等の資料を読み込んだりするそうです。“隻眼の相場師”ことマイケル・バーリ(*2)みたいですね。

あと私が質問したのは、どのような基準で投資対象の企業を絞り込んでいるのか、というものでした。

それについては、よくある定量的な財務情報(PERやPBRとか)やテーマ(AIだの東京五輪だの)でのスクリーニングではなく、業種や経済の動向を調べていく中で企業を選定していき、なおかつその競合他社を当たっていく過程で新たな投資先候補が見つかるといった具合で進めていっているようです(ただROAの値には留意している模様)。

農林中金〈パートナーズ〉米国株式長期厳選ファンド」ではIndustrialsセクターの占める割合が約30%です。

これは機関投資家向けの日本株式ファンド(厳選された構造的に強靭な日本企業約20社程度で構成されているようで、ほとんど入れ替えをしていない、しかしパフォーマンスはこちらにあるとおりTOPIXを大きく上回る)の企業を調査・選択しているとどうしてもIndustrialsが多くなり、それらの競合や供給元・先をグローバルに調べた結果、やはり米国のIndustrialsに優良な投資対象が見つかったからなのだと推測します。

その構造的に強靭な企業の特徴は以下の図の通り。


NVICのホームページの投資哲学より

ここでひとつ重大な質問を逃していたことに気付く。いつものことだが私は肝心な時に大事なことを忘れる。

農林中金〈パートナーズ〉米国株式長期厳選ファンド」の組み入れ上位の企業にコルゲート・パルモリブ(CL)がありますが、ここのところ債務超過です。お世辞にも強いバランスシートとは言えません。これに関して奥野氏に見解を聞いておけばよかったのですが、頭に浮かんでこなかったな。たしかCLの話題も少し出ていたんだが。

よく聞く見解として、キャッシュをじゃぶじゃぶGenerateできる企業は、債務超過であっても何ら問題ない、(参考記事、経営コンサルタントによる経営戦略と経営管理に効く運営管理会計の『債務超過でも自社株買いする理由と、資金繰りに問題がないケースについて - 日本経済新聞より』)というものがあります。

またピーター・リンチ氏は、配当の支払いが済んだ自社株を借入金で買い入れることは、1.借入金の利息が損金になり、2.以降の配当金の支払いが減る、という2つの理由で得であると述べています。(*3)

なるほどね、と思わないでもないですが、ウォール街やS&Pの格付けとか言ったってさ、あいつらエラソーなこと言っていてもサブプライム金融危機の時は、全員すっころんだじゃないか、と思わないでもない。

機会があったら債務超過に関しどのような見解をもたれているか、借金して自社株買いっていうのがタバコを吸いながらランニングしているようなものかどうか、伺ってみたいものです。少なくともなんらかのバリューを生んでいる行為とは思えない。

あらかじめ準備しておいた質問、「ローリンズ社(ROL)を訪問したとき、会議室にゴキブリが出たりしませんでしたか?」というのは、さすがに恥ずかしくなって出さずじまいでした。これに関しては、現時点でとくに訊きたいというわけではない。

情報開示:この記事を書いている時点で投資家K.はNVICの回し者ではありません。当ブログのモットーは、「カキカエすれどもソンタクせず」であります。しかしカツサンドがハムカツサンドになった場合はその限りではなくなるかもしれません。ROL160株保有。

(*1) 新井紀子 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』 東洋経済新報社
(*2) マイケル・ルイス 『世紀の空売り』 東江一紀・訳 文春文庫
(*3) ピーター・リンチ 『ピーター・リンチのの法則』 平野誠一・訳 ダイヤモンド社

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