今や日本は世界第三位の経済規模をもち、世界最大の債権国の一つでもあります。世界的な富裕国家の国民が資本家的発想を持たず、一七〇〇兆円を超える家計金融資産の半分以上が銀行預金となっていることは、日本人の個人資産、ひいては日本の国富にとって重大な損失です。
川北秀隆 / 奥野一成・編著 『いま日本を代表する経営者が考えていること』 ダイヤモンド社前回の記事『株式への長期投資という選択 その1 -農林中金バリューインベストメンツでの座談会-』でも書きましたが、農林中金バリューインベストメンツさん(以下NVIC)は、「農林中金〈パートナーズ〉米国株式長期厳選ファンド」の個人投資家向け公募設定を機に、一般的な日本人にも、利の乗らない貯蓄や投機的な金融商品ではなく、腰の据わった株式長期投資を訴求していこうとのお考えのようです。
日本銀行による資金循環の日米欧比較を参照すると、実際のところ日本人のリスク資産の保有率は米欧のそれと比べて低いですね。
これをもって「日本人の金融リテラシーは低い」とよく言われたりするのですが、どうでしょうね。そもそも私はリテラシーという言葉が嫌いです。私の経験上、これを振りかざしてくる奴は、たいてい誰かの意見をコピーして、上から目線でブレンドし、挙句の果てに自分のアイデアとして他人にペーストして自己満足に浸りたいだけなので、私はひそかに腕をまくることにしています。そういった輩に、お金と時間を使う価値はない。
個人的な経験(非常に乏しいものではあるが)からいっても、諸外国人が日本人より金融知識やセンスが高いとは到底思えません。仕事で親しくなった外国の人と話をしても、投資に関しては国・地域を問わず日本人の同僚と居酒屋で話すのとほとんど変わらないレベルです。仲良かった香港人は、おい、K.、いまは豪ドルだよ!と盛んに息巻いていました。サブプライム金融危機前の話でしたが。
さて、ではなぜ日本人は貯蓄志向が強いのか? というよりなぜ米国人の家計の金融資産構成における株式等の保有率が高いのか?
先日の座談会でひとつのヒントがNVICのCIO奥野氏の発言からありましたね。
奥野氏のTOPIXに対する評価はとても低いものでした。座談会というより、The 弾劾、でしたね。
その理由が『一流の経営者は、何を考え、どう行動し、いかにして人を惹き付けるのか』(ダイヤモンド社)で、川北氏によって書かれていたので引用します。
TOPIXの推移が冴えない原因はどこにあるのか。結論を先取りすれば、東証一部上場の業績が冴えないからにすぎない。(P.252)
もう少し説明すれば、TOPIXの場合、いったん東証一部上場企業になれば、その後の業績が多少悪化、低迷した程度では、東証一部上場の地位を失うことがない。上場廃止基準や第二部市場への指定替え基準があるものの、それに抵触する企業は極めて例外的である。(P.254)
座談会にて奥野氏は、「TOPIXの構成企業にPBRが1を下回っているものがたくさんある。それは株主から託されたお金を使って、なんのバリューも生み出せていない、いわば経営失格の企業で、本来なら株主から袋叩き似合って追放されてしかるべきである。そんな企業の経営者が黒塗りの車に乗ってるんだから」というようなことをおっしゃっていました。
なるほど、そういう見方もあるのか。PBR1割れ=割安みたいな認識がおぼろげに私の頭にあったので、これは面白かったですね。私は投資する企業(ワケあって今後は銘柄という言葉は使わない)を選択する際に、PBRを気にしたことはなかったですが。
バリューを生み出せていない、退場宣告されてしかるべき企業が指数構成企業としてたくさん残っている。また株主も経営者も危機感がないので、それらの企業の業績は、いつまでたってもぱっとしない。結果そいつらに足を引っ張られて、TOPIXはうだつが上がらない。S&P500やヨーロッパの指数と比べても劣後してしまう。
ここに日本人の不幸があるのかもしれないな。
なんせ、一番なじみのある株価指数がこの体たらくなのだから。おまけに日銀がその指数に連動するETFをバンバン買っているもんだから、これじゃ、細胞の増殖作用があるインスリンの濃度が高くなって、がん細胞がどんどん増えていく糖尿病患者及びその予備軍と同じじゃないか。(*)
ひるがえって米国。
奥野氏によると、S&P500は新陳代謝が十分機能しているよい指数とのことです。また米国では株主は経営者に厳しい。ちんたらやっていると情け容赦なく株式を売られたり、クビを切られたりします。結果、業績の悪い企業が退場し、新たな企業が指数に組み込まれます。株価というものは、長い目で見ると業績に連動していくので、結果としてS&P500も、数多の株式投資信託も、良い結果を残していくことになります(アクティブ投信がインデックスに勝つか負けるかは、また別の話)。
米国人の個別株式の保有状況まではわからないので、代わりに米国投資信託協会の資料を見てみます。それによると2016年時点で米国の家庭の約44%が投資信託を保有しています。
米国投資信託協会より抜粋 |
そのうちの86%の家庭が株式投資の投資信託を保有しています。複数の種類の投資信託を保有している家庭が多いので、以下のグラフの合計は100%を超えています。
米国投資信託協会より抜粋 |
そして、投資信託を保有する家庭の約80%が、投資信託の結果にConfidentと答えています。満足しているわけですね。(注、一般的に米国人は日本人より、こういった調査の回答はポジティブになる傾向があると、私個人的に認識しています)。
数値のソースは米国投資信託協会 |
そりゃ、満足しないと誰も株式に投資したりしません。何故彼らが満足しているかというと、繰り返しになりますがS&P500 に代表されるように、米国の株式の結果が長期的に良いからなです。
思うに、金融庁は積み立てNISAの商品構成に口を挟んで業界のやる気を削いだりするのではなくて、先にTOPIXの、というか東証一部上場基準を厳しくするほうが先じゃないのか。管轄がどうなっているのか知らんけど。
やっぱり日本人に一番馴染みのある株式指数自体が糖尿病状態なのに、それに連動するコストの安いインデックス投信て言ったってさあ、そりゃなかなか盛り上がらんぜ。
こういう現状を見ると、日本市場にこそアクティブ投信が活躍できる素地があるとも言えますね。次回はNVICさんに、こうしてくれたらいいなというリクエストをわがままに書いてみたいと思います。
情報開示:この記事を書いている時点で投資家K.はNVICの回し者ではありません。当ブログのモットーは、「カキカエすれどもソンタクせず」であります。しかしカツサンドを食べた後、Folgersのコーヒーが提供されてしまったら、その限りではなくなるかもしれません。
(*)鬼頭昭三 / 新郷明子『アルツハイマー病は「脳の糖尿病」』講談社ブルーバックス
参考図書
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