2024年8月29日木曜日

優良企業をつくる問い ‐ Nomad Investment Partnershipのレターと『ユニクロ』を読んで ‐

あらゆる疑問は、煎じ詰めれば、たったひとつの疑問にたどりつく。“その存在意義はなにか?”だ。

フランク・ハーバート 『デューン 砂漠の救世主』 酒井昭伸・訳 ハヤカワ文庫

日米の各企業、ならびにファンドは定期的にレポートを作成します。アニュアルレポート、有価証券報告書、決算説明会資料、マンスリーレポート等々。それらのなかでダントツで面白かったのは、かつてのRollins, Inc. (ROL)のアニュアルレポートならびにプレゼン資料でした。

なんせ紙面が人類に友好的な虫だらけでしたからね。アレ、生理的にダメな人は読めなかったと思います。それがここ最近はすっかりマトモになってしまって、ただでさえつまらない世の中がさらにつまらなくなっています。S&P500に採用されてしまうってのも考え物ですな。

そんな中、ROLとは違った意味で面白いのがNick SleepさんとQaiz ZakariaさんのNomad Investment PartnershipによるLetters to Partnersです。


折に触れてちょこちょこ読んでいます。

もともと彼らはヤング・ウォーレン・バフェットがしていたような“しけモク”投資を行っていたのですが、やがて長期的に成功すると見込んだ優良な企業の株式に集中投資して持ち続けるする方法に変わります。そのへんのいきさつは『一流投資家が人生で一番大切にしていること』(ウィリアム・グリーン著 依田光江・訳 早川書房)の第六章で詳しく触れられていますね。

彼らは優良な企業が有する特徴の一つとして、顧客・消費者・サプライヤー(もしかしたら従業員も)との「規模の経済の共有」(Scale economic shared)を擁していることが挙げられています。

これを創りあげる一丁目一番地として以下のサイクルが必要です。

  1. 強いリーダーシップによる自分たちの存在意義の問いかけ
  2. 従業員への1.の徹底した落とし込み
  3. 2.に感化された従業員による1.に応えるための仕組みの作りこみ

このサイクルで企業の“文化”が形成されます。

そしてその文化のもとで得た利益は再投資されることになりますが、ここで大事なのはあくまで1.の問いに応える再投資でなければなりません。例えば1.の答えが、いつでもより安価な製品の提供であれば、無駄に派手な宣伝をうったり店舗を装飾するために再投資することは弊害になります。逆に高揚感にあふれるブランドを提供する企業であれば、店舗をさらに豪華にすることは理にかなっています。

このサイクルが繰り返されるごとに企業の文化はよりいっそう方向性が定まってきます。生物学で言うところの方向性選択、もしくはランナウェイ現象と同じようなことが発生し、結果的にティリングハスト氏も重視するところの”特徴”が形成されます。

投資家としておさえるべきキモの一つはこの文化です。ですがNick Sleepさんが以下に書いていますとおり、

〈前略〉 and factors such as culture, because they are hard to quantify, often go undervalued by investors; 〈後略〉

なかなか文化というのは投資家に見過ごされやすいところでもあるようです。

逆に投資家はもっとわかりやすいもの、例えば革新的な技術や商品・製品(特に新製品)、店舗数の成長等々に目を奪われがちです。問題は、文化がないところで生み出されたものや成長は、かなりの割合で一発屋として陳腐化してしまうことです。Nick Sleepさんはこれをバービー・シンドロームと呼んでいます。(バービー人形はマテル社が生み出した誰もが知る傑作商品、しかし今に至るまでそれ以上のインパクトを生み出せていない)

There are very few business models where growth begets growth. Scale economics turns size into an asset. Companies that follow this path are at a huge advantage compared to those, for example, that suffer from Barbie syndrome. Put simply: average companies do not do scale economics shared. Average companies do not have a healthy culture. After all, average companies are more like GM than Wal-Mart!

そう、戦争の帰趨を決するのはたった一つか二つの新兵器の登場ではなく戦いを支え続ける資金繰りであるように、企業が優良であり続けるか否かを決するのは、革新的な商品やブランド、技術(だけ)ではありません。

もっと大事なのは

Cultures that care about the little things all the time

なのです。

そしてそのlittel thingsを日々行う原動力は、リーダーによる組織の存在意義に対する問いかけの周知徹底になります。例としてNick SleepさんはFed-Mart(Costcoの前身)創始者のSol Price氏が書いたメモを挙げています。

“Although we are all interested in margin, it must never be done at the expense of our philosophy. Margin must be obtained by better buying, emphasis on selling the kind of goods we want to sell, operating efficiencies, lower markdowns, greater turnover, etc. Increasing the retail prices and justifying it on the basis that we are still “competitive” could lead to a rude awakening as it has with so many. Let us concentrate on how cheap we can bring things to the people, rather than how much the traffic will bear, and when the race is over Fed-Mart will be there”.

我々が人々にどれだけ商品を安く提供できるかに集中しようではないか、自分たちが提供したいものだけに商品点数を絞り込み、オペレーションコストを最適化し、仕入れ価格を抑えるんだ。さあ、行って成すべきことを成せ、さすれば我々は自らを見出すであろう・・・といったところでしょうか。

どうやらこれが現在のCostcoにも脈々と受け継がれているようです。上記メモはSleepさんとZakさんがCostcoを訪ねたとき、同社のCEOだったJim Senegal氏が話を中断してわざわざファイルキャビネットから「これだよ、これこれ」的に取り出してきたものだそうです。

これこそがMattelとCostcoの長期的な株価推移の違いの根源なのではないでしょうか。

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最近、杉本貴司著の『ユニクロ』(日本経済新聞出版社)を読みました。面白かったですね。私が最初の転職で東京に出てきた98年にユニクロの原宿店がオープンしたのですが、自分自身が社会人として歩んできた歴史と重ね合わせて、とても興味深く読みました。

2024年現在、ファーストリテイリング社は日本を代表する企業です。ネームバリュー的にも時価総額的にも。

単なるフリースの一発屋で終わってしまう可能性も重々あったわけです。なにが同社を現在のポジションまで押し上げたのでしょう。

もちろんブランディング戦略とか、従来にないマーケティング、ユニークな発想、時機を得たプライシング、優秀な経営陣や社員、組織編制、SPAの導入等々、挙げればきりがないと思います。

でも同書を読んで思ったのですが、それらのアクティビティの源泉はやはり創業者である柳井氏の:

  • 仕事から帰宅後、自室で独り机に広げた大学ノートに向かい、自身と対峙し続けたこと
そして常に
  • ユニクロとはなにか、ユニクロの服とは何か
  • 服とは何か
  • 文明とは、文化とは何か

を問い続けたことにあるのではないかという感想をもちました。

ユニクロとほかのアパレル企業や苦境にあえぐGMSとの違いは、上記のような地味で数値化できないところにあるのではないかと思います。

***

せんだっての8月13日、KeePer技研(6036)の株式を追加獲得しました。その理由は同社が単に目先の売上・利益にとらわれるのではなく、「日本に独自の洗車文化を」もたらすという存在意義をしっかりと認識し、そのために必要なサービスを、質を高めつつ広めていく文化を擁していると考えているからです。

いかに自分たちの存在意義を高めるかという考えに基づいて利益がアロケートされており、決して目先の売上・利益の成長最大化が先に来ていない・・・と思います。

さて私のこの目利きはいかほどのものでしょう。この判断・認識が正しいのか否かの結果は、あと数十年待つことになりそうです。

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