A heart that’s full up like a landfill
A job that slowly kills you
Bruises that won’t heal
RADIOHEAD 『No Surprises』以下緑色の文章は同Songの歌詞
世の中には数多の投資関連の本が存在します。株式投資だけでも、個別株式のデイトレや長期投資、投資信託の選び方等々たくさんの手法・技法の著書が本屋さんや図書館の書架を埋めています。
それらの個々の投資方法の前段階にあたる株式投資そのものへの入門の本もありますが、だいたい以下の3つに分けることができると思います。
- フィナンシャル・プランナーが書くもの
- 現役のプロが書くもの
- 投資経験者(個人投資家)が書くもの
本来の意味とは違いますが、ここでは1と2をSell Side、3をBuy Sideとしましょう。
パラパラっと本屋さんとかで立ち読みしたりする限りにおいての判断で恐縮ですが、私は以下のとおりの感想をもっています。
1.は手堅い内容が多く、確かに役に立ちますが、絶望的につまらない。なんかコピー&ペースト的な内容で、読者をドライブさせるものがない。正直、これらを読んで証券口座なりなんなりを開いてみよう、と行動に移す読者って、果たして何人いるのだろうか・・・
2.は、さすがに読みごたえと説得力があるのですが・・・いかんせん本の雰囲気的に、あまり投資に関心のない人や投資未経験者が手に取ってみようと思わせるものが欠けている傾向にあります。
3.は、極端に斜に構えたものか、あるいは簡単さを強調したものがほとんどのように見受けられます。前者の場合は人々をドライブさせるものはあるのだけれど、読者が読み終えるなりいきなり金融リテラシーなる言葉を振りかざし始めたりするんですよね。つまりはイタい人々を多く生み出す傾向にある。後者は、あまりにも簡単に理路整然と書かれているので、数時間で読み終えた3分後には、本が存在したことすら忘れてしまっている。
というわけで、投資入門の書籍が実際にどれだけの人々を投資の世界に導いているのかなあ、という疑問があります。
ま、きっと、問題を抱えているのは私なんだろう。それぞれの本は素晴らしいに違いない。でも出る本出る本、上記の3パターンの枠を打ち破るものがなくてつまらない。
入門書とはこんなもんなんだろうなあと思っていたら、これらの3つのパターンに当てはまらない、とてもオリジナル(私が最も評価する箇所)でとてもエッジがきいていて、なおかつきちんと自身の言葉で書かれた、たぐいまれな本がBuy Sideから出版されました。
Surpriseです。とてつもなくいい。
***
作者のヤマザキOKコンピュータ氏は、巻末の著者紹介によると、
1988年生まれの投資家・文筆家・ウェブメディア運営者。バンド活動しながらライブハウスで働いた経験などを元に、パンクの視点からお金を考える。
ヤマザキOKコンピュータ 『くそつまらない未来をかえられるかもしれない投資の話』 タバブックス 、以下茶色の文章は同書からの抜粋
とあります。
彼が思い描くパンクとは、
重要なのは「Do it yourself」と「Anyone can do it」の精神で、つまり自分でやるってことと、誰でもできるってこと。
とのことです。
この本は(株式)投資のノウハウを書いたものでありません。
投資を生活の中に落とし込むことで、よりよく、より楽しく生きていけるのではないか、という提案だ。
とあるとおり、これまで投資に縁のなかった(若い)人々向けに書かれた提案書です。
You look so tired, unhappy
Bring down the government
They don’t, they don’t speak for us
ヤマザキOKコンピュータ氏はまず、
みんな毎日コンビニ弁当食べて、しまむらやユニクロで買った服を着て、安くも広くもない真四角のマンションに住んで、やりたくもない仕事をやっているように見える。そういう人が好まれる。たしかにこの生き方は生存率がすごく高くて、とにかく死ににくい。子供も育てやすい環境で、ある意味では生物が目指す最先端の環境なのかもしれないって思う部分もあるけど、俺にとってはくそつまらない。
と、現在の日本におけるスタンダードな生き方に疑問を呈しています(ちなみに否定も貶しもしてはいない)。そして資本主義が続く限り、カクサやオセンが益々はびこり、座して待っていると来るのは「くそつまらない未来」と述べています。
しかし彼は、日々のお金の向かう先に意識を向けることにより、「くそつまらない未来」を変えることが可能ではないか、と提言しています。
野菜を買うときや包丁や鍋を買うときも、借りる家だってお金の向かう先を意識する。これは投資のスタート地点で、ゴールであると思う。投資の真髄は生活の中にあり、この姿勢が日常に溶け込んでいけばくそつまらない未来だって少しずつ変えていけるはずだ。
くそつまらない店で買い物すればくそつまらない街に一歩近づくし、くそつまらない政治家に投票すれば、くそつまらない国に一歩近づく。同じように、くそつまらない企業の株を買えばくそつまらない社会に一歩近づくだろう。株や投資信託を買っていないという人も他人事ではない。
世の中を変えたいならば、選挙や政治について考えることも重要だけど、それだけじゃない。日々の買い物や投資だって、同じくらい重要だ。お金の使い方や働き方、あとは暮らし方を自分でカスタマイズしてベストを尽くせば、なにもしない未来よりは明るい未来が作られていくはず。
この考え方はポジティブでいいですね。
このお金の向かう先というのは、とくに現在のコロナ禍では非常に重要な視点かと思います。必要最低限の生活の一歩上のレベルである文化とか芸術とか、ヒトを人たらしむ娯楽の分野が生き残れるか否か、つまらない未来に飲み込まれるか否かの瀬戸際ですからね。
このままだと下手したら日本中の駅前の風景が、レンタカー屋さんにコンビニ、少し離れてイオン、そこまでの道なりにはディスカウントの電気屋さんと全国チェーンのファストフードに安い居酒屋、巨大なパチンコにスーパー銭湯、となってしまうかもしれないぞ。
これじゃ、まるで分散されたインデックス投資みたいな街並みじゃないか。コスパ・サイコーとか言っちゃって。
I’ll take a quiet life
A handshake of carbon monoxide
And no alarms and no surprises
No alarms and no surprises
No alarms and no surprises
Silent, silent
世界的にみると日本はやはり裕福でお金持ちなのだけど、そうであれば日々のお金の使い方にも責任があるはずです。ただヤマザキ氏はそこのところを堅苦しく指摘しているのではなく、以下のように個人レベルに落とし込んでします。
くそつまらない未来を変えるために投資が使えるとしても、俺たちの目的は限られた人生を可能な限り気持ちよく楽しく生きていくことであって、くそつまらない未来を変えること自体が目的なわけではない。
そして非常に肝心なところは以下の個所です。
よい暮らしをするには健康や安全や余暇が欠かせないし、日本で暮らすなら税金も払っていかなきゃいけない。そのためには最低限のお金が必要だけど、必要なお金の量は、どこまでが健康なのかとか、休日何をするかによっても変わる。
俺は自分の生き方も、お金の運用先も、できる限りのことを自分で考えていきたいと考えている。そのために投資は欠かせないツールのひとつだ。自分のお金の流れる先を自分で決めるという行為は人格そのものに直結していて、たとえ損が出たとしても自分で決めたことなら文句はない。
「Do it yourself」と「Anyone can do it」の精神です。株式に投資をするからといって他人や指数や定期預金に負けまいとして指南書読みまくってアップアップするのはパンクじゃない。何が欲しいか、どうやって求めるか、いくらあれば十分かは、自分で決めることです。あたりまえだけど、難しいことではありますね。
This is my final fit
My final bellyache with
No alarms and no surprises
No alarms and no surprises
No alarms and no surprises
Please
投資に関しての記述で、非常に面白いと思ったのは以下の個所です。
矢沢ファンは熱狂的で、ライブが生きがいみたいになってる人も知っている。彼がタオルを買って投げて買って投げてをくりかえしてきたから、今もライブを観ることができる。
そういう意味では、矢沢ファンのみんなは非常に優れた投資集団だと言える。
ご存知かと思いますが、矢沢栄吉さんはかつて友人に裏切られて35億円の借金を抱えたことがありますが、見事に返済しています。それもこれも5,000円もするタオルを投げまくるファンの存在があったからなんですが、そりゃ、ファンにとっては矢沢さんのライブを観続けられるのであれば、5,000円の投げ捨てごめんタオルなんて、そのリターンに比べると安い投資ですわな。
Such a pretty house
And such a pretty garden
No alarms and no surprises
(Let me out of here)
No alarms and no surprises
(Let me out of here)
No alarms and no surprises, please
(Let me out of here)
投資をすることにより、未来のカタチを自分にFinal fitする方向に変えていこうという発想は、素晴らしいものがあると思いました。私の場合は、未来に対する不安から投資を開始した経歴があるので、ヤマザキ氏のポジティブというかプロアクティブな発想は新鮮でしたね。
なによりも同書は、ヤマザキ氏が自身の考えを自身の言葉で書かれているのが素晴らしいと思います。さらにはそれに付け加えて・・・
香山哲氏によるイラストがGood。彼の手による表紙のイラストが目に入らなければ、本屋で同書を手に取ることはなかった。挿絵もあり、それを見るだけでも同書を買う価値があります。
この本は、これまで投資に縁がなかった人々をDriveするだけのパワーを秘めています。文章も読んでいて楽しいし。こういう本が出てきたということは、日本における株式投資の世界も本格的に層が厚くなってきたのかもしれません。この本を読めば、Let me out of hereとシャウトするような人生を回避できるかと思います。
ぜひ皆様も一読されることをお勧めします。私は人に本を勧めるのは苦手なんですけどもね、にもかかわらず。
情報開示:とくになし
名盤です。
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