僕はその年、芝刈りのアルバイトをしていた。芝刈り会社は小田急沿線の経堂駅の近くにあって、結構繁盛していた。大抵の人間は家を建てると庭に芝生を植える。あるいは犬を飼う。これは条件反射みたいなものだ。一度に両方やる人もいる。それはそれで悪くない。芝生の緑は奇麗だし、犬は可愛い。しかし半年ばかりすると、みんな少しうんざりしはじめる。芝生は刈らなくてはならないし、犬は散歩させなくてはならない。なかなかうまくいかない。
村上春樹 『午後の最後の芝生』 中公文庫の短編集 『中国行きのスロウ・ボート』に収録今をさかのぼること約20年前、私は世田谷の経堂付近に住んでいたことがあるのですが、すでに芝生があるような家はなかった気がする。用事があって毎週馬事公園のほうまで歩いて行っていたのですが、それでも見かけなかった。私が気が付かなかっただけか?
『午後の最後の芝生』は60年代ごろを舞台にした小説なので、そのころには芝生のある家がたくさんあったのかもしれない。90年代も後半の頃には、バブルの波や相続税対策の結果、それらの家は失われていたのかもしれない。
経堂時代をさかのぼること更に数年、私は米国に留学していました。米国東部での生活の懐かしい思い出の一つに、6月のさわやかな日差しの下のかぐわしい芝生の香りと、シュンシュンと音を立てるスプリンクラーから放たれる水の心地よい冷たさがありますね。学期も終わったばかりで、ひとけがなくなったキャンパスの芝生の上で食べる全粒粉のパンにハムとチーズを挟んだサンドイッチは最高だった。遠くからR.E.M.の『Losing My Religion』が聴こえてきたりしてね、That was just a dream...dream...
で、芝刈り機や灌漑システムを提供するザ・トロ・カンパニー(TTC)。来るべき米国での居住住宅需要増を見据えて、オペレーション・マース(参考記事『令和の改新 その4 - 巨鯨現る -』)の一環で獲得した株式です。
どういう企業か簡単にレビューします。
TTCは、芝の手入れをする機器、芝生・農業の灌漑システム、照明を含む造園の器具、除雪機、地下工事用の機械(underground construction equipment)を扱っている、デラウェア州に本社がある米国企業です。2019年の従業員は9,329人。
日本法人もあるようで、そのサイトをご覧になればもっとイメージしやすいかと思います。日本向けなだけあって、ゴルフ・スポーツ関係が中心に紹介されています。
セグメントは、プロフェッショナル(業者向け)とレジデンシャル(住居・・・というより“一般”の意味合いが強いか)の二つにわかれています。それらと、海外展開等の比率は以下の通り。
TTCの2019年度版アニュアルレポートより |
TTCは上記で述べた製品を、ディーラーや小売店(一般的なものからホームディーポのような専門的なところまで)を通じて、宣伝・販売しています。
ではRevenueとOperating Marginの推移を見てみます。
数値はモーニングスターより |
2019年度にCharles Machine Works(CMW)を買収しています。CMWは地下工事用の機械の事業をしている会社で(Underground Construction Businessと書いてありましたが、なんだかマフィアみたいですな)、狙いは老朽化するインフラの修理需要と、5G等の新たなインフラ需要を取り込むためとのことです。
2019年度の売り上げ増加のほとんどはこの買収が寄与しています。あとは除雪関連が好調だったとか。米国での昨シーズンは雪が多かったのかな。このあたりは、時々の気象条件により売り上げが左右される要素がありますね。
Marginの低下は、Raw materialや部品の購入コストの上昇(関税が挙げられていました)や上記のCMW買収の影響とあります。今後どう変化していくかが見ものですね。
Segment別の過去3年間の推移は以下の通り(数値はアニュアルレポートより)。
経営効率の指標の推移。
数値はモーニングスターより |
財務3表(数字のソースはアニュアルレポートより、P/Lは若干つじつま合わせをしています。)
2019年度だけ、長期借入金の借入と投資キャッシュフローの順番を入れ替えています。この巨大な投資キャッシュフローはCMW買収のせいですね。
勝負に出ておりますな。うまくいってくれるといいんだが。
TTCの競合は多岐にわたります。私ごときの頭にすぐに浮かぶものでもキャタピラー(CAT)やディア(DE)、コマツにクボタと・・・
しかし米国の住宅需要に絞ってみるとTTCがなかなか良いのではと考えます。今後は戸建てが増えると思われますし、かの国の戸建てには芝生がつきものだ。そして芝は刈らなくてはならない。
それに付け加えて、水や都市化という観点から見ても、TTCは見逃すには勿体ない企業かと思います。今後のOperating Marginの推移を楽しみを持って見守りたいですね。
情報開示:この記事を書いている時点でTTC94株保有
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