しかしその日曜日は三十五回もノックを続けた。仕方なく僕は半分眼を閉じたままベッドから起き上がり、もたれかかるようにしてドアを開けた。グレーの作業服を着た四十ばかりの男が、仔犬でも抱えるようにヘルメットを手にして廊下につっ立っていた。
「電話局のものです」と男は言った。「配電盤を取り替えるんです」
村上春樹 『1973年のピンボール』 講談社文庫
先日アブビー(ABBV)を放出し、それを元手にフロントドア(FTDR)とレストランブランズ・インターナショナル(QSR)を追加獲得しました。
アボット(ABT)からスピンアウトされて以来7年近く保有していたABBVを放出した理由は、おクスリビジネスってよくわからない+バランスシートが脆弱化の一方、になります。いったんマーケットに逆風が吹きすさぶと、この2つは自分にとって煩悶のもとになるので、Proactiveに放出しました。先制的自衛ってやつですな。
結局ABBVの読み方(アブビー?アッヴィ?)すらも知らなかったな。
今回追加での獲得となったFTDRをレビューします。
FTDRは2018年にローリンズ(ROL)の競合でもあるサービスマスター社からスピンオフされました。従業員は2,200人。
出来立てのピカピカなので、アニュアルレポートでの売り込みも気合が入っています。
以下の4つのブランドを通じ、ホームサービスプランを米国で提供しています。
2018年度版アニュアルレポートより |
具体的な内容は、オウチの:
【器具】
給湯設備、ごみ処理器、冷・温水器、ドアベル、煙探知機、天井に備え付けの扇風機、セントラルクリーナー、冷蔵庫、洗濯関連機器、レンジやオーブン、食洗器などの台所まわり、備え付けのマイクロウェーブや食品貯蔵庫
【設備】
HVAC関連、電気関連、配管まわり
などの、修理やメンテ、改善(Improvement)です。
これらのプランを家の所有者や住民と年間契約し、いざ各住居でトラブル発生となると、契約している16,000社の業者から適切なものを現場へ派遣します。なにやら事件は全米で8秒に一回発生しておるようです。
このオウチのトラブルというのは絶妙なタイミング、つまり忘れかかりそうになった頃合いに例えばHVACがらみの故障とかが発生するらしく・・・てなわけで、お客さんが契約の更新を再考しかかるころに当サービスのありがたさを思い出す破目になるため、契約の更新率は高いようです(たいていは自動更新)。2018年のRevenueの66%は、契約継続によるものとのこと。
新規の顧客は、住宅販売業者(米国Top10のうちの7社)経由、およびダイレクトにアプローチする2つの方法で獲得しているようです。2018年では前者の方法が47%、後者が53%。
地理的に見ると米国の西部と南部に顧客の割合が強いようです。カリフォルニア州、テキサス州、フロリダ州、アリゾナ州等。どちらかというとUpper middle層からの需要が強いのかな。でもアリゾナ??? なんでや。あそこにはサボテンしかないぞ。
競合先はFirst American Home WarrantyやOld Republic Home Protection等々あるようですが、FTDRは最大の規模を誇り、Revenueベースでは次点の競合先に対し4倍おおきいとのこと。業界内の規模のでかさで他を圧倒しようとしています。契約業者も2013年には10,000社だったのが、2018年には先述の通り16,000社に増えているのもその表れと思われます。
そのホームサービスプラン業界の規模は$2.4Bと推定され、米国の住宅市場の4%程度しかカバーされていないとのこと。オウチもどんどん便利で快適になっていますが、それはいざというときに素人の手に負えなくなっていっているという意味でもあり、これはなんとなくですが米国のこれからの世代は、そういうメンテはまとめてアウトソースしようと考える人が増えるんじゃないかと私は推測するので、まだまだカテゴリー全体に伸びしろがあるように思います。
この業界は害虫防除界隈と同じく小規模企業がひしめき合っているようです。FTDRは、安定した契約収入と比較的小さくて済むCapexを利用し、どんどん買収を進めていきそうな気配です。ROLと同じ香りがします。
Capexが軽い? 数字を見てみましょう。FTDRのキャッシュフローです。以下グラフの数値のソースはモーニングスターのサイト。
たしかにジェレミー・シーゲル氏の言うところの資本を食う豚はちっちゃいです。
ついでにRevenueの推移。
そしてこの状況下、スピンオフして独自路線を打ち出せるようになったFTDRは、Lyft社やAmazon社、Google社等で経験を積んできた人物たちをマネジメントチームに加えています。
すでに述べてきた業界の特性とFTDRの立ち位置に、きらめく企業からやってきたマネジメントチームが加わると、素晴らしい化学反応が起こるかもしれません。
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その化学反応は悪い結果に出る可能性も、もちろんあります。古き良き職人気質の組織に、アグレッシブな経営陣がなだれ込むと、往々にして組織の良い面が消されてしまうケースが発生します。
アニュアルレポートにCEOのRex Tibbens氏が書いている以下の文章が象徴的ですね。
When I joined the company in May 2018, I was surprised by the absence of data-driven metrics and limited accountability.
この会社に加わったとき、数字を根拠にして動く仕組み(文化)がないのに驚いた、とか言っています。頼もしいと言えば頼もしいですが、けっ!と思っている人も多いかもしれません。いろいろPricing等もロジックに基づいた見直しを図っているようで鼻息荒いですが、うまく行くといいですね。
財務3表(数値のソースはアニュアルレポート)。
思いっきり自己矛盾だが、B/Sは脆弱どころじゃない。ここいらへんも新マネジメントチームのアグレッシブさが出ているのか、スピンオフされたばかりだからなのか、よくわからない。
不思議なのはキャッシュフローを見てみてもDebt issueが見当たらないことで、このへんは正直私が理解できる範疇を越えています。
このあたりは今後も要注視。
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FTDRの獲得は、もちろん『令和の改新 その4 - 巨鯨現る -』で書いたことにもとづいて発動したOperation Marsに沿っています。そして以下の通り人々の豊かさへの希求に焦点を絞っています。
わたくし的には、実績や財務の健全性はあえて無視し、将来性を睨んでの獲得になります。これまでの方針とは一線を画しています。金属バットをぶんぶん振り回す、海のものとも山のものとも知れぬ高校生スラッガーを獲ったような感じですね。
さて、どうなりますやら。
情報開示:この記事を書いている時点でFTDR180株、ROL241株、ABT161株、QSR101株保有
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