夕食の前に僕は運動をする。腕立て伏せ、シットアップ、スクワット、逆立ち、何種類かのストレッチ ー 機械や設備のない狭い場所で、身体機能を維持するためにつくられたワークアウト・メニューだ。シンプルなものだし、退屈ではあるけれど、運動量に不足はないし、きちんとやればたしかな効果がある。僕はジムのインストラクターからそれを教わった。「これは世界でいちばん孤独な運動なんだ」と彼は説明してくれた。「これをもっとも熱心にやるのは、独房に入れられた囚人だ」。
村上春樹 『海辺のカフカ(上)』新潮文庫最近多忙である。
前回の記事『「汝の父を敬え」作戦 -2nd Front-』で書いた通り、二人目の子供が生まれたので、ますます自分の時間がとれなくなってしまった。ムスメ(3.5歳)が主治医を務める病院での患者さん役を務めねばならないし、ムスコ(一か月)のパンパース - What else? - も、けっこうな頻度で替えねばならない。なのでアニュアルレポートを読む暇もなけりゃ、ブログなんぞ書いている場合でもない。アルトリア(MO)が最近14.3%の増配をしたことはちゃっかり知っているが、JMスマッカー(SJM)が2019年度のQ1のRevenueをミスったことが耳に入ってくる余裕は、当然のことながら、ありません。
ましてや退社後にスポーツウェアを抱えてジムに寄り、マシーンやスクワットラックの前でひたすら順番待ちをして余計なフラストレーションをかかえこむ、なんて優雅なことをするヒマはない。
しかし、いずれムスコとキャッチボールをするために、フィジカルなコンディショニングは欠かせない。
というわけで、苦肉の策として本屋さんで目についた究極の自重トレーニングの書籍、『プリズナートレーニング』(原題『CONVICT CONDITIONING』)を買ってきて一読してみたところ、これがコンディショニングのみならず、個人の投資活動に対しても、とても示唆に富んだ内容だった。ちょっと紐解いてみようと思う。
『プリズナートレーニング』は、実在するのか否か定かではないポール・“エントレナドール(コーチ)”・ウェイドなる人物(以下、師ウェイド)が、23年間の服役生活中に習得したキャリステニクス(古くは紀元前480年あたりのスパルタ軍が活用していた、自重を使って体を極限まで開発する技術)を、体系的かつ非科学的(下線はあくまでK.の判断)にまとめた本である。
こういうのはある程度非科学的な方がいい。そのほうが説得力が増し、読者(トレーニー)をやる気にさせる。ま、だから、体育会系には、時に唖然とさせられる不条理がはびこるのだが。
自重で行うので、必要なのは自宅での最低限のスペースとやる気、あと、そうそう、ごまかしを許さぬ忍耐力と、ペンと紙である。師曰く、シンプルで表紙が固いノートがいいらしい。
なので、おうちで時間が空いた時に、ささっとやることができる。受付のおねーさんに会員カードを見せる手間もなければ、JUST DO ITと書かれたTシャツを着こまなくてもよい。トレーニング直後にせわしなくプロテインをのどに流し込むような品のない行為も必要ない。
師ウェイドの指導にもとづき、現在ビッグ6のうち、プッシュアップ、スクワット、プルアップ、レッグレイズの4つを行っている。師が強調する忍耐力に関する教えに素直に従って、家や娘と行く公園で、STEP1から丁寧に行っている。さすがにウォールプッシュアップやヴァーチカル・プルは、こんなんやってていいもんなのか・・・と心が揺らいだが辛抱した。
開始して約3ヶ月、プッシュアップ・スクワットはSTEP2の中級、プルアップはSTEP2の初級、レッグレイズはSTEP1の中級である。さっさと次のSTEPに進んでしまいたいのを我慢して、丁寧に反動を利用することなく上級の回数を余裕でこなせるまで踏みとどまろうと頑張っています。
驚くなかれ、それでもけっこう体つきが変わってきたぞ。学校でやっていた腕立て伏せなんて、けっこうインチキしてたんだな。さしあたりの大きな目標は、スクワットとレッグレイズのSTEP6まで進み、ブリッジを開始することである。
この本が気に入った理由は、ひとつには普通のトレーニングの指南書とかに書かれることがほとんどないブリッジの重要性が強調されていることである。師ウェイドは“能力よりも見かけを重視する現代文化の影響”と一刀両断です。
もうひとつは、強靭な肉体を作り上げるにあたってのキャリステニクスの長期的視野、永続的な効果を口を酸っぱくして強調されているところですな。
明日の筋肉サイズと強さを約束する本は忘れたほうがいい。それらはごまかしであり、失敗と欲求不満に導くだけだ。(P.299)
そう、私が必要なのは、ムスコとキャッチボールできる肉体である。ぴったりのタンクトップを着るためのカラダ、サイドレイズやレッグカールをするためだけに使う筋肉ではない。
であれば、日常生活に無理なく適合でき、かつ大げさに言えば生きている限り永続的に効果を得られる自重トレーニング方法が体系的に書かれているこの本は、私にとってかけがえのない、フィジカル・コンディショニングにおけるバイブルである。バイブルなのだから、ちょっくら非科学的なのがちょうどいい。
このバイブルを片手にゆっくりと、しかし確実に自分の体をコントロールし、動かす能力を身に着ける。その結果としてキャッチボールに耐えうるどころか、エレベーターケーブルのような太もも(オレ、この表現が好き)を手に入れることができれば幸いである。
***
この考え方は私の株式投資への考え方についてもそっくりそのまま当てはまる。
少なくとも現時点で私は、今日明日にでも大金持ちになる必要性はさらさらないし、Mr.マーケットや他の方々と含み損益(上腕二頭筋の力こぶのサイズ)を比べっこしたりする趣味はない。日々の生活を家族とともに楽しむことが最優先である。いささかなりとも投資活動が、時間的にも経済的にもその優先事項を妨げることがあってはならない。
私は一部のインデックス投資家と違い、そんなに負けず嫌いではないので、指数に劣後してもヒステリーをおこしたりはしません。お金も時間も知識もレバレッジをかけない状態(つまりは自重)で少しづつ経験を積んでいき、それを次のステップに生かし、最終的にエレベーターケーブルのように力強い資産ができていれば御の字である。(これは決してユナイテッド・テクノロジーズの株式を持つという意味ではない)
そう、レバレッジをかけない。自重。これが肝だ。
腹落ちもしていないのに、どこかからコピーして自分のアタマにペーストした、利いた風な知識は必要ではない。
必要なのは、限りなく生に近い情報と、自身のこれまでの経験・体験、そして(出来不出来は別として)自分のアタマで考える力である。あとはしっかりした背表紙のノートとペンがあれば、それで充分。電卓すら邪魔なだけだ。
投資するに足る企業が見つかれば、そのときのPrice Tag(株価やPER、PBR)がどうであろうが、時の米国大統領が誰であろうが、セクター比率がいびつになろうが、御大バフェットが買っていようが手放していようが、四の五の言わずにフトコロが許すだけ投資すべきである。
あとはゆったりと資産を時の流れにゆだねればよい。Price Tagの数値は時々によって変化もしようが、気にすることはない。ひたすらホールドし続けるのみである。値札を気にする時間があれば、投資以外のもっと有意義なことに使うべきだし、それが気になるようであれば、そもそも投資するまでに十分に考えていない証拠である。
コンディショニングと同じだ。レバレッジ(バーベルやマシン、プロテインにステロイド)をかけずに自重で丁寧に体を鍛えつづけるのと同じように、レバレッジ(借金しての株式投資、他人の編み出した理論、人づてのタダシイ投資法等々)をかけずに、自分のアタマで考えて選び抜いた企業に投資をする。シンプルだ。
これで私は、20年後にはヨロイのような胸、ハガネのような株式ポートフォリオを保持しているはずである。これ以上の楽しみがあるであろうか。
***
御大バフェットは、かつてこう言った。今後10年間マーケットが閉鎖されても、幸せな気持ちで持ち続けることのできる企業の株式を買え、と。(*1)
農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)のCIOである奥野一成氏はこう述べている。仮に証券取引所が5年閉まっても大丈夫な企業にしか投資しない、と。(*2)
ふっ、アマいね。
私が目指すのは、たとえ懲役20年をくらっても、ビクともしない株式投資である。
Hey, are you convinced, or...convicted?
情報開示:この記事を書いている時点で、K.はいかなる懲役刑もくらっていません。SJM54株、MO322株保有
(*1)元祖のソースは把握していません。
(*2)SBI証券によるインタビュー記事より
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