アメリカ人はリーマスの手に、もう一ぱい、コーヒーをわたして、
「帰って、ひとねむりしたらどうです? かれがあらわれたら、電話で知らせますよ」
ジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』宇野利泰・訳 ハヤカワ部
私には、私の人生を豊かにしてくれた3人のピーターがいる。
ひとりはピーター・リンチ、ひとりはピーター・クレメンザ、そして最後のひとりはピーター・ギラムである。
いや、まあ、その、なんだ、実在の人物は一人だけやけど。
スパイ小説の巨匠、ジョン・ル・カレには、私個人的には2つの黄金期があると思っていて、一回目は冷戦真っただ中に書かれた『寒い国から帰ってきたスパイ』から『パーフェクト・スパイ』まで、二回目は『誰よりも狙われた男』から現在(もう八十歳を越えてるんやけど)です。
ジョージ・スマイリーを主人公とした3部作、とくに一作目の『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』(以降TTSS)は何度読み返したかわかりません。その第一次黄金期(念のため、あくまで私の主観です)は、『寒い国から帰ってきたスパイ』の冒頭部分の一ぱいのコーヒーから始まります。
まさに一ぱいのコーヒーから、あの、何とも言いようのない、冷戦下の策略・謀略・権力闘争の生臭い、しかしそれでいて格調高い、寒い風の吹く世界が広がるのです。どういう世界かは、この英BBCのTTSSのドラマのオープニングテーマが如実に表しています(ちなみにこのドラマでスマイリーを演じたのは、スターウォーズ・エピソード4でオビワンを演じたアレック・ギネス、いやもう最高)。
その第一次黄金期の(わりかし)常連メンバーがピーター・ギラムです。映画版TTSSではベネディクト・カンバーバッチが演じていた人物です。スマイリーの部下で組織の中で様々な重圧にさらされながら、『スクールボーイ閣下』では、あの長い作戦中に折に触れて、同じ部のお手伝い的な女性スタッフを口説き落そうと四苦八苦しちゃったりしています。
なんでこんなことを書いているかというと、先日本屋さんをブラブラ歩いていると、まったく不意打ちでジョン・ル・カレの新作『スパイたちの遺産』に出くわしたからです。こういう出会いがあるので、予備知識なしの本屋さん巡りはやめられない。
で、翻訳した加賀山卓郎氏によるあとがきを読んでいると、なんと主人公はそのピーター・ギラム、そしてこともあろうに物語は『寒い国から帰ってきたスパイ』とTTSSが下敷きとなっていて、なんかスマイリーも登場しているっぽい。なにやら上記物語の関連人物から英国情報部が訴訟を起こされたらしい・・・
舞台設定はかなり現在に近いようなので、ピーターも相当老けているはずである。
ああ、なんと、またあの世界に新作で触れることになろうとは思ってもみなかった。
というわけで、普段、小説は文庫本になるまで読まないのだけれど、これはもうハードカバーで読まずにはいられません。
しかし、TTSSはしょっちゅう読み返したし映画も見たので記憶は鮮明なのですが、『寒い国から帰ってきたスパイ』を最後に読んだのは、もう10年近く前・・・ということで現在3回目となる再読中です。
そのうえで満を持して『スパイたちの遺産』を読む・・・これは新年の楽しみですな。2018年は良い年になりそうだ。それにしても最近は英国づいているなあ。
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2017年最後の定期獲得は、あなたの人生の扉を開けるコーヒーを提供するJMスマッカー(SJM)になりました。最後までA.O.スミス(AOS)と迷ったんだけど、ペット関連で一筋の光明が見えたのでSJMにしました。That's enough, men.
情報開示:えーと、このブログはいちおう株式投資ブログです。この記事を書いている時点でSJM54株、AOS40株保有
なお、TTSSの映画版(邦題は書きたくない)は、原作を読んで筋を理解したうえで観ないと混乱するだけで終わります。なんせあれは、ある一定年齢以上の英国人の誰もが知っているキム・フィルビー事件、及びそれをもとに書かれた一大ベストセラーにして古典のTTSSを読んだことがある人向けに作られていますもので。
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