2017年5月14日日曜日

救世主なのか、それとも成長ストッパーか・・・ -オマハの賢人ウォーレン・バフェット-

「ウォーレン・.バフェットに働きかけようと思っている」ファルドは言った。慎重に考えたうえでの発言だった。ポールソンが伝説のオマハの投資家の友人であることを知っていたからだ。バフェットは投資銀行家全般を嫌悪していることで有名だが、長年、業務の一部でゴールドマンのシカゴ支店を利用していて、ポールソンとも親交を結んでした。
 バフェットが投資するなら、金融業界では、万全の保証書をもらったに等しい。市場は大いに好感するだろう。

アンドリュー・ロス・ソーキン 『リーマンショック・コンフィデンシャル 上』 加賀山卓郎・訳 ハヤカワノンフィクション文庫 
*ファルドはリーマン・ブラザーズ破たん時のCEO、ポールソンはその時の財務長官

「リーマンショック・コンフィデンシャル」を読んでいると、名だたる米国の金融関連の経営陣たちは、いよいよ状況が切羽詰まってくると、まず「いったいこのありさまをどうやって株主に説明するんだ!」とうろたえはじめ(イイですね、最初に彼らの頭をよぎるのがお客様でもなければ従業員でもなく、株主です)、次に「こうなったらバフェット氏にすがろう」というパターンがいくつか見受けられます。


さすが、ウォーレン・バフェット。圧倒的な存在感です。

その伝説のオマハの投資家に関し、2017年5月11日の日本経済新聞(夕刊)で稲井創一氏が面白い見解を示していました。

『アップル「IBM化」回避なるか』と題された記事で、バフェット氏が好む投資先は、成長性だけでなく高いシェアを誇る製品を持っていて、継続して多額の現金を生み出す企業とされていると書かれています。その理由は、その現金でもって配当等の株主還元を重視している企業を好むからからだとか。

最近バフェット氏(というかバークシャー)はインターナショナル・ビジネス・マシーン(IBM)のロング・ポジションを三分の一に減らしました。そのIBMの財務運営に関してバフェット氏は素晴らしいと評したことがあるようです。

バフェット氏は2011年からIBM株式に投資しているようですが、それ以来IBMは自社株買いと配当に約700億ドル投じてきたそうです。その反面キャッシュが減少し、長期負債は増加したとのこと。

結局、バフェット氏は株主還元にそうとうな資金をIBMに吐き出させた一方、R&D等はその株主還元策の4割にとどまっていて、これってどうなのよ、バフェット氏との付き合いは程々のほうがいいかもしれいぞ・・・というのが記事の内容です。

いや、新鮮な見解ですね。バフェット氏に関してはたくさんの記事や論評を目にしますが、たいていはその投資手腕をべた褒めか、あるいは彼は耄碌しちまったと結論づけるか(ようするに好きか嫌いか)のどちらかなので、この記事のように実は経営者にとっては「物言う株主」とは別の意味で厄介な存在かもしれん、という考え方はおもしろい。

そういえば、バフェット氏がポジションを減らしそうだという情報を得たIBMのCEOであるロメッティさんが、あわてて氏にコンタクトした・・・という記事も読みました(ソースは覚えていない)。

では、ちょっとそのIBMの財務を見てみましょう。

まずは負債の推移です。


数値のソースはアニュアルレポート、及びモーニングスターのサイト

たしかにLong term debtは2013年にガーンと増えていますね。まあ低金利の影響もあったのでしょうが。しかしそれ以前の2007年にもけっこう増えています。

次にBSを2006年と2016年で比較してみます。


数値のソースはアニュアルレポート
えーっと、ちょっと2006年は昔過ぎたかな。

自社株買いの推移。


数値のソースはアニュアルレポート、及びモーニングスターのサイト

確かに2011年近辺以降も高いですが、上記で長期負債が増えた2007年もけっこう自社株買いをしています。このころ米国はイケイケな経済情勢だったはず。

IBMはこのころから借金して株主に笑顔を振りまいていたのか。

直近3年間のキャッシュフロー推移。
数値のソースはアニュアルレポート
確かに営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを引いたフリーキャッシュフローは潤沢にGenerateされています。どっかの企業や事業を買収しなければ、投資キャッシュフローは稼ぎに対して非常に少なく済んでいます。

ここ2年は自社株買いは控えめですね。そこまで自社株買いの資金を借金で・・・とまでは見受けられませんが、上記の期間以前は調べていません。

察するにバフェットさんは、初歩的なことだよワトソンくんの有望性だけでなく、そもそも以前から自社株買いとかに積極的であり、なおかつ流動性が高く規模のでかいIBM株式に目をつけて、目をつけられたIBMは、その圧倒的な影響力を持つ株主を手放すまいと、さらなる還元策を強いられた、という感じなのかもしれない。CEOとしては、いきなりカド番大関になった気分だったかもね。

しんどかったね、ロメッティさん。

バフェット氏がポジションを減らしたことで、ちょっとは肩の荷が下りて伸び伸びと経営できるかもしれない。

それよりもなによりも、私としてはもうひとつのバフェット銘柄であるコカ・コーラ(KO)のほうが・・・こまったもんだぜ、まったく。
KOのDebtの推移、数値はアニュアルレポートより、Short Termはloans & noteとcurrent maturitiesの合算 

これから来る米国での利上げ局面での金利負担増が・・・うーん、どうだろう。できればKOへのエクスポージャーを減らしたい。

情報開示:この記事を書いている時点でKOx285株保有

でもIBMがインターナショナル・ビジネス・マシーンの略だと知った時の驚きは、TDKが東京電気工業の略だと知った時の衝撃に匹敵しますね。

【関連記事】『配当、自社株、そして負債 その2 -『勝てるROE投資術』を読んで-
このブログのKOに関する嘆きの、及び撤退戦の記事はコチラ

2 件のコメント:

  1. まさにInternational Buyback Machinesですね。

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    1. IBMに限らず、老舗連続増配企業の増配と自社株買いの宴は終わり、しばらくおとなしくなるんじゃないかと思います。

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