2016年2月26日金曜日

ドクターJJの憂鬱

Doctor! Doctor!
Can't you see I'm burning, burning
作詞/作曲:BAILEY THOMAS ALEXANDER/CURRIE ALANNAH JOY, 『Doctor! Doctor!』 played by Thompson Twins

2016年2月17日の日本経済新聞に『医薬・医療、再編促す株主』と題した記事があり、そこでジョンソン&ジョンソン(JNJ)の主要株主であるアルチザン・パートナーズが、
「利益率が低い医療機器と(大衆薬を中心とした)消費者向けの2部門を分離すべきだ」
とJNJに対して物言いをつけているとの記事がありました。なんでもヘルスケア業界のM&Aは、金額ベースでいうと2015年は過去最高で、この勢いはまだ続きそうであり、そういう状況下では株主が注文をつける好機なんだそうです。

良い機会(?)なんで、JNJをおさらいしてみます。まずFY15の売り上げのセグメントの割合。
2015年度Q4のプレゼンテーションより抜粋
パルチザン、じゃなかったアルチザンパートナーズが難癖つけているのはConsumerとMedical Devicesですね。記事には書かれていなかったんだけど、なんとなくMedical Devices全てではなく、その一部に対して分離を要求しているのではないかなと思いますが、どうなんでしょうか。


Revenueの推移。
ソースはモーニングスターのサイト
うーん、FY15はへこんでいますね。前年度比-5.7%。

JNJはもちろんグローバル企業で、FY15の売り上げの49%は米国外から、また20%は新興国から来ています。なのでドル高の影響をうけています、御多分に漏れず。為替の影響を除くと+1.8%。


2015年Q4のプレゼンテーションから結果をドリルダウンします。


Consumer


バンドエイドや、リステリン・タイレノール等の大衆薬、コンタクトレンズ、ベイビーローションなどなど。-6.8%。為替を除くと+2.7%。


Pharmaceutical


医療用医薬品。-2.7%。為替を除くと+4.2%。買収や売却の影響を除くと米国で+18.1%と好調です。


Medical Devices


医療機器、診断薬(診断器?)。整形外科、外科手術製品、糖尿病関連(グルコース測定器やインシュリンポンプ)、不整脈のカテ治療等々。-8.7%。為替を除くと-1.4%。買収や売却の影響を除くと+2.5%。


それでは、各々のセグメントの利益率を確認してみます。後ほどのアボットラボラトリーズ(ABT)となるべくApple to appleで比較するため、Adjust無しのReported Income Before Taxで計算しました。数値のソースはこちらのレポート




確かに医療用医薬品が高く、消費者向け製品は利益が低い。


ABTはというと(数値は2014年度版アニュアルレポートより):




ABTはOperating earningsの数字で、私自身きちんと理解できていないのですが、上記のJNJのReported Incomeとは必ずしもApple to appleな比較ではないと思います…。


それを踏まえたうえで・・・


目を引くのはJNJのMedical DeicesとABTのVasとの違いで・・・JNJが低いのは、私が思うに整形関連が含まれているからではないかと。あれ、結構効率悪い短期貸し出し(オペがある度に大量の部材を送っては、使われて売り上げが立つのはごく一部で、残りは戻ってくる・・・多かれ少なかれインプラント系医療機器ビジネスはそうだけど、整形関連はとくにすごい)やってるし、原価も高そうな感じがする・・・推測ですが。

Vas関連(ステントやカテ)もインプラント系の医療機器では、そんなに原価が低くないほうと理解しているのですが、ABTのそのセグメントの利益率はいいですね。


個人的には、なぜヘルスケア各社がやっきになって規模の拡大に走るのか、いまひとつわかりません。JNJもデピューやシンセスを買収するうまみってあったのかな。あんまりシナジーを発揮できないM&Aが多い気がする。

10-Kより、日本語訳が正しいかは不明
ま、いいけど。物言う株主が火をつけようとしているようですが、どうなることやら。でも、ConsumerのバンドエイドがJNJでなくなったら、ちょっと寂しいな。

FY15の数字(数値のソースは10-K)。






ABTといい、JNJといい、BSはでかくて安定しいますね。ヘルスケア業界はR&Dを賄うのと、あとベンチャーの買収も重要なので、こういうBSになる傾向なのでしょうか。

純利益/総資本をもとにした利回りは、JNJのほうが勝っています。

前年度からのRevenue、Operating Income、配当の伸び率の推移。FY15は含んでいませんがRevenueは上述の通りです。

ソースはモーニングスターのサイト
とまあ、いろいろ書きましたが、JNJに関しては完全放置、時と場合によって追加投資みたいなスタンスです。

経験上、ヘルスケアのグローバル企業は、何年かごとに不祥事(機器の不具合等)がおこって株価が下がったりするので、そういう時はぬかりなく獲得するのがいいように思えます。性格悪いけど。

できれば株式分割をして欲しいかな。

情報開示:この記事を書いている時点でJNJ174株、ABT108株保有

ちなみにDr.Jことジュリアス・アービングは、マイケル・ジョーダンやマジック・ジョンソン、ラリー・バードとかに並ぶ伝説のバスケットボール選手です。私が中学のころ、画期(自暴自棄?)的ローカル放送局のサンTVが毎週火曜日にNBAを放映していて、当時大活躍のプレーヤーでした。

で、そのころ人気だったのがトンプソン・ツインズ。このマクセルのUDシリーズのカセットテープのCMが良く流れていましたね。

いずれにせよ、JNJとは何の関係もございません。趣味でやっているブログなもんで・・・ハイ。

Appendix

一株当たりの数字の推移
ソースはモーニングスターのサイト

配当性向の推移
ソースはモーニングスターのサイト

2 件のコメント:

  1. こんにちは
    >なぜヘルスケア各社がやっきになって規模の拡大に走るのか
    確か、病院で仕入れ一括代行業者というか、ボリュームディスカウントを最大化するような動きがあるって聞いたので、それに対抗すべく、メーカーも力をつけているって聞いたんですけど違ったでしょうか?
    (ご貴殿は外資の医療機器メーカーの人なので、釈迦に説法か私の認識違いか?)

    JNJのMD&Dで最も力が入っている(と勝手に思っている)のは、整形じゃなかったんですか?だからそれなりに儲かっていると思っていました(数年前、人工股関節か何かで訴訟問題で特損を大きく出しましたが)。

    ABTのVas利益率がいいのは業界ナンバーワンの「ザイエンス」があるからで、25%の営業利益率はメドトロニックス辺りと比較してそん色ないので、こんなもんだと思っておりました。

    あと、JNJのMD&Dはロボティックスなど成長分野への投資も入っていると思います。

    ABTが大分割をやってしまったので、JNJも同様の圧力があるのはわかる気がしますね。個人的には今のままでも構わないのですが。

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    1. gonchan0810さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
      なるほど、メーカー側のそういう狙いがあるのかもしれません。何分私はうだつのあがらない一従業員で、世の中の多くの人と同様(いや、あるいは私だけか)、あんまり自社および業界についての大所高所的な動きに疎いのは否めないです。
      たまたま複数の医療機器ビジネスの製造原価を知りうる立場になったことがあり、とあるビジネスからVasの担当に移ったとき、製造原価が高いし、置き在庫が大量に必要で、どんなに努力しても定期的に大量廃棄が発生するし、あんまりおいしくねえなあ・・・と思った記憶があります。Vasですらそうだったから、整形関係に少しかかわったとき(このときは製造原価を知りうる立場ではなかったが、それに比較的近いビジネスの原価は知っていた。VasよりCOGSは高かったように記憶いてます)、こりゃコストかかるなあと感じた次第です。
      ちょうどザイエンスが日本で承認される前夜にVasにかかわっていたので、Xが来る前に売れるだけ売れという雰囲気だったのを覚えています。ABTのステントはすごいらしいですね。

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