この一週間、毎晩三時間も眠れずすごしてきたポールソンは、胸のむかつきを覚えた。金融業界が - 自分のキャリアのすべてを捧げてきた世界が - 目のまえで崩れていくのを見ているのは、精神的にひどくこたえた。一瞬、めまいを感じた。ここのところ世界的に株価が軟調のようですね。
オフィスの外では、部下が彼の嘔吐する音を聞いた。
アンドリュー・ロス・ソーキン 『リーマン・ショック・コンフィデンシャル 下』 加賀山卓郎・訳 ハヤカワノンフィクション文庫
引用した文章の中に登場するポールソンとは、前回の金融危機時の米国財務長官であるヘンリーポールソン氏です。彼は“ブルドッグよろしく不屈の闘志で粘るタイプ”で、ゴールドマン・サックスで32年働き、2005年にはウォール街で最高額の給与を手にしたCEOでもありました。
いっぽうでEメールに馴染めず、夜9時の就寝を心がけ、身に着ける時計はプラスチック製のランニング・ウォッチ、10年着続けたコートがくたびれたのでカシミアのコートを買ってきたら、奥さんに「なんで?」と言われたので、翌日すごすごと百貨店にコートを返しに行く人物でもあります。
いいじゃないか、10年も着たんだから・・・、と彼の代わりに呟いておきましょう。
さて、その不屈のポールソン、私の記憶に間違いがなければ、『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』で描かれる金融危機の一大絵巻の最中に2回くらい吐いています。たいへんでしたね。もちろん食あたりをしていたわけではないです、念のため。
どこかで読んだのですが、株価の下落はヒトの体調とよく似ていて、良性なものと悪性なものがあるようです。
ヒトでいうと、良性な体調不良(という表現が正しいかどうか疑問)は、例えば働きすぎたり遊びすぎたりしてオーバーヒート気味の時に、ちょっと休め、ひとやすみ・ひとやすみ的な感じでおこる発熱や風邪のことですね。身体の自浄作用です。
悪性となると、ウイルス性の風邪や発熱、ヤバいものを食ってしまったがために起こる下痢等々、でしょうか。株価のサブプライム(リーマン)クラスだと、それこそくも膜下出血クラスだったんじゃないですかな。
今回の株価下落について、暴落と表現している人もいらっしゃいますが、ちっともあてにならない私の目でみると、健全なる自浄作業による、ごくごくまっとうな調整と映ります。例えばアメリカ株式に投資する前にや、バブルの発芽? 名目経済成長率と長期金利で書いたように、単なるオオカミ少年的でない警告もきちんとなされてきています。
おそらく現財務長官のジェイコブ・ルー氏は、まだまだ吐くまでに至っていないと思われます。もし吐いていたとしたら、それは自身の署名を見すぎて目を回したからにちがいないでしょう。
というわけで、いつもどおりのペースで9月に定期獲得です。
今朝の毎日新聞朝刊では、米国雇用統計は事前の市場予想を下回ったそうです。これを受けてか株価も下がっているようです。米国の利上げはどうなるでしょうねえ...
でも同じ記事には、失業率は2008年4月以来の水準まで低下し、平均時給も前年同月比2.2%増とも書かれています。
錯覚に惑わされているとき、現実を見据えられる別の人間にとっては金儲けのチャンスだ。
とマイケル・ルイスの『マネー・ボール〔完全版〕』 (中山 宥・訳 ハヤカワ ノンフィクション文庫)にも書かれていましたね。
さて、くだんの金融危機時、ポールソン氏の出身母体であるゴールドマンの追い詰められたマネジメントチームと、五十億ドル分の優先株&10パーセントの配当を受け取る取引を電話でまとめた御大バフェットさん。受話器を置いた後、孫たちとデイリー・クイーンに出かけて行ったようです。
いいなあ、デイリー・クイーンのバナナシェイクは昔よく食べたなあ。
私はなんの取引もやっていませんが、ムスメとドトールでコーヒーです。さて、ドラフト会議に臨もう。
情報開示:とくになし
ちなみに今回の記事のタイトルは村上春樹氏の『嘔吐1979』を真似してます。
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