2015年9月26日土曜日

オイルはVictoryの匂いを帯びて - ヘルメリッチ&ペインの獲得 その1-

 ジョージの会社を買取り、水圧破砕法による生産技術を手にしたデボンは、さらに生産効率を上げる方法を見つけた。これまでほかのプロジェクトで活用されていた水平掘削法を導入したのだ。この結果、井戸1本あたりの生産量は飛躍的に増加した。ジョージの会社を買ったことは大成功だった。

岩瀬 昇 『石油の「埋蔵量」はだれが決めるのか?』 文春新書 (ジョージとは「シェール革命の父」ジョージ・ミッチェル氏のこと)
ひきつづき2015年9月上旬、某所、ドラフトルームにて。第3四半期の定期獲得の候補選択の会議。

3rd man (以下3rd): あらかじめ断っておくが、12月には会議を開かない。すでに獲得銘柄はエクソンモービル(XOM)の追加と決めている。(1) 12月末にSBI証券が特定口座対応開始のタイミングでオファーを出す。

E: この界隈じゃあんまり聞きませんけどね、株式銘柄の予告購入ってのは。

3rd: というわけで、今回はXOMは候補から外す。春の会議で述べたように、今年の目玉は石油関連だったはずだ。ところがふたを開けてみるとこれまでのところJMスマッカー(SJM)とプロクター&ギャンブル(PG)を獲得している。コーヒーと、パンパースの向こうから、そこはかとなく漂ってくるK.のムスメのウンコの香りはするが、オイルの匂いが全然ない。I love the smell of oil in the morning.  It smells like...victoryなのだ。

E: ファンドマネジャー、それはオイルではなくてナパームです。しっかりしてください。資源関連でしたらヘルメリッチ・アンド・ペイン(HP)がここのところ株価がおおきく下落しています。 


Yahoo! Financeより、2014年8月1日から2015年9月24日まで、赤はSP500、緑がXOM、青がHP

3rd: HP? おれはITに興味がない。

E: ヒューレット・パッカード(HPQ)ではありません、しっかりしてください。以前調べた42年連続増配中の石油・ガス油田の掘削請負屋さんです。米国の中規模石油会社デボンエナジーを得意先に持っていて、例の水平掘削法がどうたらこうたら得意げにアニュアルレポートに書いていた会社です。

3rd: 思い出した、あのFlexRigsを提供している企業だな。そりゃ、オイル価格の下落の波をモロに被ってそうだな。

E: おさらいです、えーと、まずは2004年度から2014年度までのRevenue。



ソースはモーニングスターのサイト
E: シェールオイルの生産量の伸びとシンクロする形でRevenueも増えています。シェールオイルの生産量の推移については米シェールオイル生産量は減少見通し 原油価格年末70ドル予想を継続という吉田哲氏の記事を参考にしてください。

で、直近一年のRevenueのQ毎の推移。



ソースはモーニングスターのサイト
3rd: むむむ。

E: 同社の6/24/2015付プレゼン資料によると、契約稼働中のリグの数は、この5月から6月にかけて161基から153基に減少しています。さらにFlexRigsのSpot pricingも昨年11月から6月にかけて約28%減ったとか。おまけに米国にて2基の早期契約解除通知を受け取って・・・

3rd: まるでスターリングラード以降の東部戦線からの戦況報告じゃないか。なにかいいネタはないのか?

P: HPのすごいところは、シェールオイルの生産量が急速に増加した2008年から2015年にかけてシェアを伸ばしているところです。2008年ではHPはNoble Energy (NB)、Patterson-UTI Energy Inc (PTEN)に次いで第三位の9%のシェアでしたが、2015年6月では16%のシェアで堂々一位です。

E: これはHPの技術力の高さを意味しているかと・・・。ご存知の通り非在来型の油田では複雑な水平方向のドリリング等が必要になってきますが、HPのAC FlexRigは他社のリグより優れているのがシェア増加の理由と思われます。そして米国での今後の油田の主流はますます非在来型になっていきます。

3rd: ACってなんだ?

E: Alternating Current (電気の交流)・・・

3rd: だからそれは何を意味するんだ?

全員: ・・・・・・・・・・・・

P: ブログ主の知性からして、これ以上掘り下げるのは無理かと・・・ただACリグは複雑な水平方向へのドリリングに適しているようです。以下の図の通りHPは米国でのシェール革命の技術革新の一端を担っているという理解で十分かと思われます。


HPの2015/6/24のプレゼン資料より
E: 自国内での非在来型エネルギー源確保は米国の国策です。三井物産で長年エネルギー関連業務に従事してきたエネルギーアナリスト岩瀬登氏によると、米国には、企業家魂、パイプライン網、人材力、経験に裏打ちされた技術(職人)力、地下水・河川からの水供給、教育機関等々、他国に追随を許さない条件が整っています(2)。さらなる技術革新の余地がまだまだ期待されているようであり、そこの市場でシェアを伸ばしてきたHPのAC FlexRigsの未来はそうそう暗いものではないと・・・

3rd: Objection(異議あり)! Speculation(憶測にもとづいている)! 未来を都合よく描いてはならん。しっかりとこれまでの数字を確認しよう。

P: ではHPのキャッシュフローを確認します。が、そのまえに、HPは2004年以来、憶測・思惑・見込みにもとづいたリグの生産は行っていないようです。ちゃんと契約ベースで生産しているようです。しっかりしてますね。

E: 会議もたけなわですが、なにやらコーヒーの香りを打ち負かす強烈な匂いが漂ってきます・・

3rd: Kのムスメがやらかしやがったな。会議は中断だ。新しいパンパースを持って来い、はやくしろ。

‐続く‐

情報開示:この記事を書いている時点でXOM30株、SJM22株、PG83株、HP50株保有

(1) 予告は予告なく変更される可能性があります
(2) 岩瀬 昇 『石油の「埋蔵量」はだれが決めるのか?』 文春新書

2 件のコメント:

  1. 気になって調べてみましたが、AC drive rigはリグの動力源が交流モーターのため、回転数の調整がし易いとのことです。 が、現在はHP社以外の他社も交流モーターを採用していて、交流モーターを使用していることのみが同社のFlexrigの強みでは無いようです。 同社のFlexrigの強みについては、情報が見つかりませんでした。

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  2. わかりやすいご説明ありがとうございました、助かります。たしかにHPのプレゼン資料でも、同社のリグは生産性や信頼性や環境にも良いとかいろいろ書いてありますが、ありきたりといえばありきたりなんで、ダントツですごいわけではないかもしれませんね。くじけりゃ誰かが先に掘る、競争と技術革新の世界ですかね。井戸掘るのが忙しくてモートを掘るどころではないのでしょう。

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