銘柄選択は芸術でもあり科学でもある。
ピーター・リンチ 『ピーター・リンチの株の法則』 平野誠一・訳 ダイヤモンド社
せんだって(といっても、もう数か月前か…)ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハザウェイ(BRK)の株主への手紙が公開され、そこには同社の上場企業への投資先が記載されています。BRKはこれ以外の直接支配権を持っている企業があるので、それを考慮にいれたうえで見ないといけませんが、やはり私もまずはレターのそこの部分を確認してしまいます。
プロ・アマ(個人)を問わず、他人様の株式投資のポートフォリオの中身を覗くことほど楽しいことはありません。
以前は自身の投資の参考にするため、ほかの人の投資対象を見に行くという目的がありましたが、根がひねくれものである私は、最近は他の人と構成企業がダブっていないかの確認が主な目的になっています。
でもさらに楽しいのは、その各々のポートフォリオにおける構成企業の中身と比率の変遷を見ていくことです。これまたBRKを題材にした以下の動画が有名ですが、こういう風に円グラフでポートフォリオの中身を時代ごとに見ていくと、その個人なり組織なりの個性が滲み出てくるので、なかなか見ごたえがあります。
参考にしようとするスケベ心なしでも、見ているだけで楽しいですね。ある意味、芸術鑑賞に近いものがあります。
そう、ピーター・リンチ氏が述べているように、株式投資は鑑賞に堪えうる芸術にも成り得るのです。株価や基準価格推移を追った折れ線チャートだけを眺めるのは、もったいない話です。
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ただし鑑賞ができるのは、ポートフォリオの構成企業数がせいぜい30社くらいまでかなと思います。数百も投資先があったら、とてもじゃないけど目がついていけません。
また例え構成企業が少なくても、各企業の比率が一律3%前後の等分方式だったりしたら、ぜんぜん面白くありません。芸術はバクハツなのです。そこには偏りというものが必要とされています。そういった意味でもBRKのポートフォリオは一級ですね。
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上記の見地から行くと、僭越ながら言わしていただければ、現在私が積み立て投資をしているスパークス・新・国際優良日本株ファンドと農林中金<パートナーズ>長期厳選投資の2本は、芸術としての鑑賞に堪えうる資質を有している、と思います。(コモンズ30もどうかなと思うのですが、まだそこのところの見地から確認したことがない)
では、せっかくなので、芸術鑑賞と行きましょうか。当記事を書いている時点で、新・国際優良日本株ファンドの最新の全体版運用報告書が出ていないので、農林中金<パートナーズ>長期厳選投資を鑑賞してみましょう。ちなみに同ファンドに積み立て投資をし始めたのは・・・えーっと、いつだったかな・・・第一回目の運用報告会に出席したので、2018年の秋よりは前であることは確かなのだが・・・忘れた。
なお、以下のグラフは全体運用報告書から数字をマニュアルチックに拾ってきて作成したので、細かいところでは間違いがあるかもしれませんので、予めご了承ください。評価額をもとにした円グラフになります。
また、株数に言及していますが、株式分割(があったとしても)は考慮していません。
【2018年】
26社、637,900株。評価額$66,886K。
ビザ(V)が筆頭で7%の割合。ベクトン・ディッキンソン(BDX)やコルゲート・パルモリーブ(CL)が上位ですね。おや、ローリンズ(ROL)が結構上だったのか。第一回運用報告会で私がその存在を知ったゾエティス(ZTS)も比較的上位です。
一番割合の少ないディア(DE)が約1%。一般的な意味で高揚感をもたらすブランド力がある企業は、ディズニー(DIS)、ティファニー(TIF)、ナイキ(NKE)といったところですね。このあたりは私、個人的に苦手なんです。
小売りが無いな。
【2019年】
25社、678,900株。評価額$76,849K。
どうやら期間中一時的にIBM、モンサント、PRAXAIREを保有していたようです。モンサントはバイエルに、PRAXAIRはLindeに買収され、IBMはすべての機関投資家が通る道?といったところかな。
あとCOMPAS MINERALS(CMP)が姿を消しています。
それ以外のメンバーの入れ替えはなかったようで、なおかつほとんどのメンバーの株数が増えている(積み立て投資による資金流入が順調の証)のですが、ハーシー(HSY)、チャーチ&ドワイト(CHD)、ローリンズ(ROL)、マコーミック(MKC)が株数を減らしています。なかでもMKCが大きく減っており・・・最下位に位置しています。
たしかこのときMKCはReckit Benckiserの食品事業(RB Foods)の大きな買収をしたので、いったん様子見を決め込んだのかと推察します。
BDXから3M(MMM)までは初期の上位の常連で、私個人のイメージ的には手堅く重厚なものを感じます。
【2020年】
コロナ禍突入ですね。
上位はあまり変化ありませんが、新規にコストコ(COST)、ローパー(ROP)、ヴァリアン・メディカル(VAR)、ジャック・ヘンリー(JKHY)といったところが顔をのぞかせています。
一方でユナイテッドテクノロジー(UTX)、HSY、TIFが姿を消しました。またインターナショナル・フレイバーズ&フレグランシズ(IFF)が大きく株数を減らしています。
UTXは会社が三分割され、TIFはモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンに買収されています。
IFFは大きな買収をしたためポジションを減らしたとの報告があったように記憶していますが、それ以外のメンバーはすべて株数を増やしており、とりわけ大きく増えたのはMMM、テキサス・インスツルメンツ(TXN)、そしてMKCです。結果的にはMKCの買収が良い方向に評価されたのでは、と推察します。
UTXがなくなった分、新規メンバーがどどッと増えて、新風が吹いた期間でしたね。
【2021年】
26社、1,454,900株。評価額$237,239K。
コロナ禍真っ只中。
新規でハネウェル(HON)、コパート(CPRT)が加わりました。一方でシーメンスと統合したVARと、IFFが姿を消しています。
ほぼすべてのメンバーの株数が増える中、CLが微減、そしてROLが大幅減で、ああ、なんと、ポジションがちょびっとです。そりゃ、ないぜ、オイ、といったところです。どういう判断だったのだろう。まさかアニュアルレポートに虫がいなくなったので、つまんなくなったとかいうわけではあるまい。
MKC、COST、ROPが大きく株数を増やしています。
【2022年】
29社、2,297,100株。評価額$298,162K。
コロナ禍が明けてきました。
大きく世代交代が行われた期間になりましたね。BDX、CL、MMMといった元上位常連企業がいなくなり、イリノイツールワークス(ITW)やエマソン(EMR)が株数を減らしています。
かわりに(数が多いのでシンボルのみ)TJX、FAST、RMD、STE、SPGI、MSCIが新たに加わっています。さらには2018年からのメンバーのアンフェノル(APH)やシャーウィン・ウィリアムズ(SHW)の株数が一気に増え、上位に食い込んできました。
このあたり、NVIC内でも考え方に発酵のようなものがあったのかもしれません。
MKCが上位に来ているのが個人的にうれしくもあり腹ただしくもあり。(私のポートフォリオと被っているから)
そして、おお、ROLが奇跡の大復活。謎だ、この株式をめぐる一連の動き。
ちなみに私は『新たなる情報源 ー農林中金<パートナーズ>米国株式長期厳選ファンドー』に書いたように、ファンドマネジャーの奥野氏、もしくはNVICの運用メンバーの方々の中にそうとうなムシ嫌いがいるのでは・・・という仮説を持っています。それが正しければ、この期間内のいずれかのタイミングでNVICのオフィスにゴキブリかネズミが発生し、パニックに陥った挙句、発作的にROLのポジションを増やした可能性があります。
果たして私の仮説が正しいかどうか・・・今後の動向が気になるところ。
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という風な具合に、やはり他人のポートフォリオは、折れ線ではなく円グラフで鑑賞する方が楽しいものであります。
また、手放したハーシー(HSY)はとっても甘いよなー、とニヤニヤできるのも他人(といっても私も受益者なんだが)のポートフォリオを見る楽しみの一つです。自分のポートフォリオで同じことを見つけた日にゃ、押し入れに閉じこもるしかありません。
まあ、長期株式投資におけるポートフォリオの構成企業の中身や数、それらの比率は、それこそ正解はないですからね。難しいところでもあり、悩ましいところでもあり、楽しいところでもあります。一言で言うと醍醐味です。
そんなポートフォリオの構成に悩める個人投資家(もちろん私を含む)にとってもっとも実のある助言は、やはりウォーレン・バフェット氏の以下の言葉かなと思います。
私はシスティナ礼拝堂のなかであおむけになって天井の絵を描いているようなもんなんだ。“いやあ、とってもきれいな絵ですね”と人々がいってくれればうれしい。しかし、それは私の絵だから、“青ではなくもっと赤を使ったほうがいいんじゃないか”という人がいたら、さようならといってやる。私の絵なんだ。人がどういう値段をつけようが関係ない。この絵は永久に完成しない。それが素晴らしいところだ。
アリス・シュローダー 『スノーボール 上〔改訂新版〕』 伏見威蕃・訳 日経ビジネス人文庫
いっしょに末永く楽しみましょう。
情報開示:面倒くさいのでSkip
By the way、HSYのROICや営業利益率の推移はすごいですね。株価次第じゃ、The 3rd Man's Fundに加えたいです。
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