2021年2月12日金曜日

効率と非効率の間 -セリア(2782)の獲得-

 プロの投資家は見当違いなことをしている。ブルームバーグやマーケットウォッチ、ロイターといった情報サービスを次々に導入し、ほかのプロの投資家が何をやっているか把握しようと躍起になっているのだ。そんな暇があったら、もっとショッピング・モールに足を運ぶべきだ。

ピーター・リンチ 『ピーター・リンチの株の法則』 平野誠一・訳 ダイヤモンド社

みなさま、仕事帰りとか暇なときについつい足を伸ばしてしまうお店(飲食店以外)はございますでしょうか。私は、コロナ禍で在宅勤務になる以前は、ほぼ毎日、昼休みの食後にオフィスの近所の本屋をのぞいたりしていましたが、それ以外では、たまにコンビニ、ムスコ(2.5歳)のオムツが切れるタイミングでドラッグストア、3・4カ月に一回くらいの頻度でテニスのガット張り専門店といったところです。


あとは、必要に迫られて服とか靴とか買いに行きますが、半年に一回とかかなあ。最近は酒屋(個人商店)の日本酒コーナーをブラブラすることが増えたな、そう言えば。

パソコンショップに寄らずに家には帰ることはできない、と言っていた地方在住の友人がいましたが、人それぞれ、ついブラブラっとうろついてしまうお店というものがあるものです。何かを買うわけでもなく、なんというか一種のストレス発散で、旅行とかに行く感覚に似ているかもしれません。

先日、ムスメ(6歳)の小学校入学式用の服をレンタルするのだ、というわけで近所のデパートに行ったのですが(ワイルドワイフに「なんだって小学校の入学式にそんなもんがいるんだ」と訊いたら田舎者扱いされた・・・ま、そのとおりなのだが)、そのついでにデパート内にある100円ショップに寄って、ムスメのために折り紙や髪結いの紐、ムスコのために塗り絵やクレヨンを買うことになりました。

滅多に100円ショップには行かないのだが、あらためて見渡すと、けっこうおしゃれで品質の悪くないものが充実しています。またいろんな商品があり、ついつい、あ、これも買っておこうという気になり、わりかし楽しい。

緊急事態宣言にもかかわらず、そのお店は混んでいました。ワイルドワイフとムスメの買い物ペースについていけなくなった私は、ムスコとともにデパートの通路をうろつき始めましたが・・・そういえば、半年前くらいに来た時も、このお店の人込みから逃れてブラブラしていたなあ・・・

・・・

常に回転不足の私の脳細胞も、ようやくピピーンときます。

あの時も今も、オレは店の人込みを避けた。ということは、あの時も今も繁盛しているということだ。

お店の名前はセリア・・・聞いたことがある。

帰宅して調べてみました。

***

まずはRevenueとOperating profitと、経営指標の推移。以下グラフの数字のソースはモーニングスター




RevenueもProfitもずっと右肩上がりです。またROAが安定して10%を超えているのは驚きですね。それに薄利多売のイメージがあったけど、けっこうProfitが高いような気がする。

競合と比べてみます。100円ショップ業界は業界動向SERACH.COMによると、ダイソーがトップで、以下セリア、キャンドゥ、ワッツと続くようです。最大手のダイソーは上場していないようなので、キャンドゥとワッツのOperating Marginを比較してみます。



セリア、強いですね。ほかの2社を圧倒し、なおかつ安定しています。

ここまできて思い出しました。セリアに関する記述をどこかで読んだことがある。そう、苦瓜さんの本だ。 


詳しくは同書を手に取ってほしいのですが、セリアはPOSシステムを導入し、そのデータを活用しながら店舗を変えていった結果、売り上げ・利益を伸ばしていったと書かれています。同社のPOS導入は2004年、苦瓜氏の本が出版されたのは2017年ですが、上記グラフを見る限り、その後も順調に機能しているようです。

 

昔ながらのビジネスが設備の近代化と事業規模の拡張を同時に進めるとき、そこには利益が増える可能性が存在する

ピーター・リンチ 『ピーター・リンチの株の法則』 平野誠一・訳 ダイヤモンド社


と、ピーター・リンチさんもおっしゃってますね。

***

100円ショップが消費者に対し提供する価値は何でしょう。

私は効率さと、非効率の楽しみだと思う。

扱っている商品は、ほとんどコモディティ化したものです。いまの日本では、ありふれたものばかりです。これらのコモディティアイテムは、個々にはそんなに価値を提供できません。正直それのために買いに出歩くのが億劫かもしれないものが多いですね。かといってわざわざアマゾンで頼んでデリバリーしてもらうのも微妙です。すくなくともムスコ用の塗り絵の本とかを頼もうとは思わない・・・個人的な感想かもしれんが。

少し昔までは、先ほど述べた折り紙や髪結いの紐、塗り絵の本やクレヨン、さらには虫取り網とかを買おうと思ったら、それぞれ文房具屋さん、服飾店、本屋さん、おもちゃ屋さんなどを個別に巡らなければなりませんでした。それが100円ショップでは全てそろっています。また、いつも買わなきゃと思っては忘れているようなアイテム(洗濯ピンチとか)を発見したりして、なかなか便利である。

効率的だ。人間様がコモディティごときに右往左往しなくてもよいのである。

一方、人には買い物(ウィンドウショッピングを含む)という行為そのものを楽しむという性質があります。そう、私や私の友人のように、昼食や仕事からまっすぐオフィスや家に帰れない人々が大半だと推察します。

ある程度の品質を保つ多種多様のアイテムがずらりと棚に並べられていれば、ついつい楽しくなってきます。それが100円なのだから、気がつくとカゴがいっぱいだったりします。さらには私が訪れたセリアはデパート(マルイ)の中に位置しており・・・ということは、たいていの人が服や化粧品等を見ながら数時間を過ごし、あれもこれも欲しいなあ、けど買えるのはこれだけだなあ・・・というモヤモヤ心理を抱えており、それを解消するために100円ショップに足を向けている気配があります。

人は非効率な存在です。買い物すべてを効率的に済ましてしまうことができないのです。その非効率が生む需要を効率的に取り込んであげるのが、100円ショップの価値です。

禅問答みたいになってきたな。

***

その100円ショップ業界もかなり飽和状態になりつつあるようです。今後どんどんカテゴリーが伸びていくとは思えません。よくて微増、現状維持。悪くてじりじり縮小。

しかしピーター・リンチさんはこう書いています。

 

さえない業界の成長率は仮にプラスであっても低いだろうが、弱い企業が退出していくため、生き残った企業がその分大きなシェアを握っていく

ピーター・リンチ 『ピーター・リンチの株の法則』 平野誠一・訳 ダイヤモンド社


体力勝負となってきた場合、筋肉質な企業、すなわち利益率が高い方が生き残る確率が高いと考えます。


同社の有価証券報告書にはこう書かれています。


近年、収益性が低下している傾向がみられることから、100円ショップ市場が飽和状態に入っている可能性が考えられます。その環境下で同業他社は、100円を超える価格の商品の取扱いを開始、拡充する動きを見せており、当社は100円商品に特化することで、100円商品のシェア獲得の好機と考えております。


コモディディに100円以上は払わない、というのは、もはや日本において好不況に関係なく人々に形成されている潮流と考えます。価格決定力というのは、上げるばかりが能ではない。

そこにPOSシステムを駆使し、なおかつ東京と大阪にサテライトオフィスを置き情報収集・商品企画力の向上の次なる一手を打っているセリアは、悪くないのではと考えます。

というわけで、せんだって鎌倉新書を売却して得たキャッシュを原資とし、セリアをThe 3rd Man's  Fund枠で200株獲得しました。見た限り少なくとも過去10年間連続増配しているし、いいんじゃないですか。

情報開示:この記事を書いている時点で2782 x 200株保有

それにしても、現在の状況では、知事さんたちと日銀総裁が髪をかきむしりそうな企業ですね。

なお、「投資のヒント」というページを新たに開設しました。よかったら、どうぞ。


4 件のコメント:

  1. いつもイントロの事例はリアルで身近です。でも後半の話はたいへん興味深く有益なヒントを得ることができ感謝しています!

    もう少し更新頻度が高ければいいのに、と感じています

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    1. 個人投資家は見当違いなことをしている。下手なブログ(当ブログのこと)を読んでる暇があったら、もっとショッピングモールに足を運ぶべき。ついでにセリアで買い物をしていただければ尚良し(笑)

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  2. 株式投資のヒントのページ、チョイスが好みです。
    こういった感じで、自分のためにブログの片隅でコツコツと蓄積していくのもありだなあと思いました。

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  3. ステイホームの正月に、お酒をチビチビやりながら、始めております。

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